「書いてはあるんです。ただ、つながらなくて」── 材料のロットと製品を、情報でつなぐ 〜 中小製造業のモデルケース【第2段階 体質改善】

── 納入先からの電話を切った直後、事務所で

Jさん(品質担当):「先月の出荷分に欠けが続いているそうです。使った材料のロットと、ミルシートを出してほしいと」

生産管理担当:「書類は保管されているはずだが、いつ頃のかな? どれだろう」(ファイルバインダーをめくりながら)

Jさん:「書いてはあるんです。ただ、どの製品に使ったかが、つながらなくて」

その日の夕方まで、Jさんは綴じた帳票をめくり続けた。

品質の記録を取っていない工場は、ほとんどない。

材料が届けば受け入れの台帳に書き、混ぜれば配合の記録を書き、成形すれば日報を書き、検査すれば検査票を書く。毎日、きちんと続けている。

ところが、その記録がいちばん役に立つはずの日に、記録はつながらない。

今回は、そんな工場が、材料と製品を「情報でつなぐ」形に変えていった話だ。


記録はあるのに、答えられなかった

ある粉体成形の工場(従業員約40名)では、材料メーカーから届く粉体の材料を混ぜ合わせ、型に詰めて押し固める圧縮成形と、型に流し込む射出成形で部品を作っていた。

材料の袋には、材料メーカーのロット番号が印刷されている。同じ番号は、ミルシート(材料メーカーが出す、成分や検査結果の証明書)にも書かれている。

その日、納入先から連絡が入った。先月の出荷分に、角の欠けが続いているという。聞かれたのは2つだった。その製品に使った材料のロットはどれか。そのロットのミルシートを出してほしい。

Jさんは、まず検査票を出した。製品の製造ロット番号は書いてある。けれども、材料のことは何も書いていない。

次に、成形の日報を開いた。成形した日付と製品は分かるが、どの配合の粉を使ったかは、書いてある日とない日があった。配合の記録には材料のロット番号が書いてあったが、下4桁だけの日もあれば、メーカー名だけの日もあった。ミルシートは、材料が届いた日の順に綴じてあった。

4種類の紙を日付で突き合わせて、答えがそろったのは2日後だった。Jさんともう1人で、のべ10時間ほどかかった。

それでも、使った材料のロットを1つに言い切れなかった。念のため、前後1週間分の出荷先に連絡することになった。

記録は、工程ごとに日付の順で並んでいる。問い合わせは、製品から材料へ、工程をまたいでやってくる。


足りなかったのは、記録ではなく「番号の受け渡し」だった

あとで帳票を工程の順に並べてみると、それぞれの紙には、書くべきことがほぼ書いてあった。

足りなかったのは、前の工程の番号を、次の工程の紙に書き写すことだった。

材料のロットは、配合のところまでは届いている。ところが、配合の番号が成形の日報に移らない日がある。成形の日報の番号は、検査票に移らない。紙と紙のあいだで、番号がそこで途切れていた。

しかも、1つの材料のロットは何回かの配合に分けて使われ、1回の配合からはいくつもの製品ロットができる。日付だけを手がかりにすると、同じ日に使った別のロットと区別がつかない。

L社長は、こう言った。

「どの工程も、書くことはちゃんと書いているんです。書いたものが、隣の工程とつながっていなかった」

現場は手を抜いていない。記録の形が、工程ごとの都合でできていて、工程をまたいでさかのぼる側の都合でできていなかった。それだけのことだ。


帳票に「どの番号を、どこに書き写すか」を決めた

幅(支援者)がこの工場でしたのは、材料と製品を情報でつなぐことだった。新しい機械もシステムも入れていない。決めたのは、帳票の形と、1枚の表だけだ。

まず、帳票ごとに「どの番号を、どこに書くか」を決めた。

配合の記録には、材料の袋に印刷された材料メーカーのロット番号を書き写す欄を置く。成形の日報には、配合の記録に振った配合番号を書き写す欄を置く。検査票と出荷の記録には、成形の日報の製造ロット番号を書き写す欄を置く。どの欄も、帳票のいちばん上に置いた。

次に、「どう書き写すか」を決めた。番号は下4桁で省かず、全桁を書く。前の工程の番号は、記憶や口頭ではなく、前の工程の紙から写す。

そのうえで、Googleスプレッドシートで「ロット対照表」を作った。1行が製品の1ロットで、列は「製造ロット番号」「配合番号」「材料のロット番号」「材料の受入日」「ミルシートの綴じ位置」「成形日」「検査結果」の7つ。この表があれば、製品のロットから材料へ、材料から同じ材料を使ったほかの製品ロットへ、どちらの向きにもたどれる。

表への入力は、Jさんが1日の終わりに、その日の帳票からまとめて行うことになった。ミルシートの綴じ方も、Jさんが材料のロット番号の順に変えた。


2週目、書き写す欄が空いていた

新しい帳票を使いはじめて2週間、Jさんが表に入力していくと、書き写す欄が空いている帳票が全体の1割ほどあった。

成形担当のPさんに聞くと、理由ははっきりしていた。

「材料のメーカー名と品名とロット番号と入荷日と、書く欄が多くて。型を替えているときなんかは、あとで書こうと思って、そのまま忘れてしまうんです」

最初の帳票では、材料について分かることを全部書き写す形にしていた。あとでたどるときに、情報は多いほうがいいと考えたからだ。

しかし、それはさかのぼる側の考えだった。工程に立つ側からすれば、書き写す欄は、毎回かかる手間でしかない。

そこで、帳票の形を見直した。各工程で書き写すのは、前の工程の番号1つだけにした。メーカー名や入荷日は、番号さえあれば、表の側で受け入れの台帳から引ける。

翌月、書き写す欄の空きは月に2〜3件まで減った。

現場に合わない帳票は、使う人の工夫で迂回される。欄が空いていたのは、成形担当のせいではなかった。


元のやり方に戻らないように、会社が決めた2つのこと

帳票と表の形が落ち着いたころ、L社長とJさんは、社内の決まりを2つ加えた。

1つは、番号の欄が空いた帳票は、次の工程で受け取らないことだ。書き写すのは渡す側の仕事だが、確かめるのは受け取る側の仕事にした。空いていたら、その場で前の工程に戻して埋めてもらう。あとから思い出して書くより、ずっと手間が少ない。

もう1つは、月に1回の「さかのぼり確認」だ。Jさんが過去の製品ロットを1つ選び、成形担当と一緒に、表と帳票で材料のロットとミルシートまでたどる。

この確認には、ねらいが2つあった。

1つは、書き写した番号が役に立つ場面を、書く人自身に見てもらうことだ。成形担当にとって、それまで帳票は「出すもの」だった。自分の書いた番号から材料のミルシートにたどり着いてみて、はじめて「こうやって使われるのか」と分かる。

もう1つは、抜けを見つけることだ。確認のたびに、番号の書き違いや、表への入力漏れが見つかる。見つかったら、その場で直す。記録の質は、使うことで保たれる。


次の問い合わせは、30分ほどで答えられた

新しい帳票を使いはじめて3ヶ月後、別の納入先から問い合わせが入った。ある部品で寸法のばらつきが出ているので、使った材料のロットとミルシートを確認したいという。

Jさんは、ロット対照表で製造ロット番号を探した。配合番号、材料のロット番号、受入日、ミルシートの綴じ位置が1行で出てくる。同じ材料のロットを使ったほかの製品ロットも、表を絞り込めば並ぶ。

綴じ位置のとおりにミルシートを抜き出し、写しを添えて回答を送るまで、30分ほどだった。連絡の対象も、同じ材料のロットを使った3つの製品ロットに絞れた。

Pさんは、回答が送られたあとにこう言った。

「自分が書き写した番号で、ここまでたどれるんですね」

表に行がたまってくると、不良を材料のロットごとに並べることもできるようになった。欠けが出た製品ロットを並べてみると、半分ほどが2つの材料ロットに集まっていた。材料メーカーと話をするときの手がかりになる数字だ。帳票を日付の順に束ねていたころには、数えようのなかった数字でもある。

番号を書き写すのは、次の工程のためではない。いつか、さかのぼる日のためだ。


材料と製品を情報でつなぐ:3つのアクション

1. 工程のあいだで受け渡す番号を決める

材料メーカーのロット番号、配合番号、製造ロット番号。工程ごとに番号があるなら、新しい番号を作る必要はない。前の工程の番号を、次の工程の帳票のどこに書き写すかを決める。欄は帳票のいちばん上に置き、番号は全桁で写す。

2. 書き写すのは番号1つ、ほかは表の側で引く

現場で書き写す項目を増やすほど、欄は空きやすくなる。各工程で写すのは前の工程の番号1つに絞り、メーカー名や入荷日などは、スプレッドシートの表の側で台帳から引く。1行が製品の1ロットになる表を1枚作れば、製品から材料へ、材料から製品へ、どちらの向きにもたどれる。

3. 受け取る側が確かめ、月に1回さかのぼってみる

番号の欄が空いた帳票は、次の工程で受け取らない。月に1回、過去の製品ロットから材料のロットとミルシートまでたどってみる。書いた記録が答えになる場面を、書く人自身が知っていることが、元のやり方に戻らないいちばんの支えになる。


このモデルケースについて

この話は、北陸の中小製造業でのDX伴走支援の中で出会ってきた課題をもとに、よくある流れを再構成したモデルケースです。特定の実在企業の事例ではなく、登場する会社・人物・数字は、典型的なパターンを示すために構成しています。

始めた取り組みを続けるための仕組みについては「定着の仕組み」、業務の流れを書き出して重複を見つける進め方については「業務の見える化」のモデルケースもあわせてどうぞ。ほかのモデルケースは、実績・事例にまとめています。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「記録はあるのに、いざというときにつながらない」という状態から、工程をまたいでさかのぼれる記録の形まで、現場の言葉で一緒に整理します。「課題の言語化」から始めるDXを提案しています。

この話のような取り組みは、HABAねっとでは「第2段階 体質改善」としてお手伝いしています。

素早く、手早く、滑らかに。

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