「会議室、空いてるかちょっと見てきます」── ホワイトボードと紙のバックオフィスを、新しいシステムを入れずに整えた話 〜 中小製造業のモデルケース【第2段階 体質改善】

── 朝、事務所のホワイトボードの前で

製造課のリーダー:「午後の打ち合わせ、会議室は空いてますか?」

Oさん(総務):「会議室、空いてるかちょっと見てきます。……あれ、ここに書いてあるの、先週の予定のままですね」

製造課のリーダー:「工場から毎回ここまで見に来るの、けっこう遠いんですよ」

ホワイトボードの予定は、書いた人が消さない限り、そこに残る。

会議室の予約はホワイトボード。毎日の記録は紙。申請はフォームにしたけれど、その先は手作業。

中小企業のバックオフィスでは、こうした仕事が、担当者の丁寧さに支えられて回っていることが多い。

今回は工場の現場ではなく、総務と経理の話だ。新しいシステムは入れていない。使ったのは、社内ですでに使っていたGoogle Workspaceだけである。


ホワイトボードで回っていた会議室の予約

ある製造業(金属プレス加工・従業員約40名)では、会議室と応接室の予約を、事務所のホワイトボードに書き込んで管理していた。担当は総務のOさんだ。

空いているかどうかを知るには、事務所まで見に行くか、Oさんに電話で聞くしかない。工場にいる人や、外回りの営業には、それが手間だった。書き忘れや消し忘れがあると、同じ時間に二つの打ち合わせが入ってしまうこともあった。

総務の様子を見かねて、私から提案し、Googleカレンダー・Googleスプレッドシート・Googleフォームを組み合わせた予約の仕組みを用意した。フォームから予約を入れ、予約の記録はスプレッドシートに残り、会議室ごとの予定はカレンダーで誰でも見られる。

社内ですでに使っていたGoogle Workspaceの中で組めたので、新しく発生した費用はゼロだった。

工場からも、外出先のスマートフォンからも、空き状況が見られるようになった。Oさんへの「空いてますか」の電話も、ほとんどかかってこなくなった。


紙の体温記録を、フォームに変えた

コロナ禍には、全員の体温を毎日測って記録する必要が生じた。

最初は紙だった。事務所の入口に記入用紙を置き、出勤した人が書き込む。総務が毎日それを集め、一覧に書き写す。約40名分で、毎日20分ほどかかっていた。

この記録を、私は紙からGoogleフォームに変えた。一人ひとりがスマートフォンから体温を送ると、回答はそのままスプレッドシートの一覧になる。書き写す作業はなくなった。

フォームで記録するやり方は、社内に少しずつ広がっていった。


経理が自分たちで変えた、経費精算の入口

経費精算の申請も、やがてGoogleフォームで受け付けるようになった。変えたのは経理の側だ。こちらから言い出したことではない。

ところが、経理担当のNさんから、こんな相談が届いた。

「フォームにしたのに、月末は楽にならなくて。自動化できませんか」

申請は各部署から月に60件ほど。Nさんは届いた申請を経費の台帳(スプレッドシート)に転記し、承認者にメールで知らせ、承認されたら精算書のひな形に写してPDFにし、ドライブの決まったフォルダにしまっていた。1件あたり5分ほどで、月に約5時間。その多くが月末の数日に集中する。

Nさんは手を抜いていない。フォームも台帳もメールもドライブも、道具はすべてそろっていた。

入口は、もうデジタルになっていた。その先の道具と道具のあいだを、人の手がつないでいた。


手順を聞いてから、その先をつないだ

私が最初に聞いたのは、三つのことだ。いまの手順、承認の流れ、そしてファイルの名前の付け方である。

そのうえで、Google Apps Script(Google Workspace の中で動く小さなプログラム)を使い、フォームが送られたら次の四つが順に進む仕組みを作った。

  1. 申請の内容を、スプレッドシートの台帳に書き足す
  2. 申請に書かれた承認者へ、承認をお願いするメールを送る
  3. 承認者がメールの「承認」リンクを押すと、台帳の状態が「承認済」に変わる
  4. 承認済になったら、申請の内容をひな形に流し込んでPDFを作り、決められたフォルダにしまう

テストを重ねてから、経理の業務に組み込んだ。

それからは、Nさんの月末の経費精算の作業は、台帳の「状態」の列を見て、承認が止まっている申請がないかを確かめるだけになった。かかる時間は15分ほどだ。誰の承認待ちかを、受信メールをさかのぼって探す必要もなくなった。


空いた時間と、やめた記録

空いた時間を、Nさんは月次の締めの準備を前倒しすることに使っている。月末に重なっていた作業がほどけ、仕事の順番を自分で組めるようになった。

体温の記録にも、その後があった。記録が必要な時期が過ぎると、総務はフォームの受け付けを止めた。

フォームにすると、記録を取るのは簡単になる。簡単になると、記録を増やしたくなる。この会社は、要らなくなった記録をきちんとやめた。道具が軽くなった分を、確認や報告を増やすほうには使わなかった。

▼ 3つの見直しの結果

  • 会議室の予約:ホワイトボード → どこからでも空き状況を確認(新たな費用 ¥0)
  • 体温記録の書き写し:毎日約20分 → 0分
  • 経費精算の転記・連絡・保存:月約5時間 → 月約15分(確認のみ)

バックオフィスを整えるときの3つのアクション

第2段階の「体質改善」は、仕事の凸凹をならして、元に戻らないようにする取り組みだ。バックオフィスの仕事は、その分かりやすい入口になる。

1. 入口は、いまある道具で変える

ホワイトボードや紙で回っている仕事の多くは、カレンダーやフォームのような、すでに社内にある道具で入口を変えられる。新しいシステムを選ぶ前に、手元の道具で足りないかを確かめる。

入口を一度変えると、社内に「フォームでやればいい」という感覚が育つ。次の入口は、会社が自分たちで変えていくことも多い。

2. 入口の先で、人がつないでいる所を見る

入口だけがデジタルになり、その先は転記やメールの手作業のまま、という形はよくある。楽にならない理由は、道具と道具のあいだにある。

つなぐ仕組みを作る前に、いまの手順、承認の流れ、ファイルの名前の付け方を担当者から聞く。担当者の頭の中にある決まりを拾ってから作ると、仕組みが実際の仕事に合う。

3. 取りやすくなった記録を、増やしすぎない

記録が簡単になると、あれもこれも記録したくなる。浮いた時間に確認や報告を足していくと、忙しさは形を変えて戻ってくる。

要らなくなった記録はやめる。空いた時間は、担当者が後回しにしていた仕事に回す。体質が変わったかどうかは、そこに表れる。

入口を変え、その先をつなぐ。新しいシステムを入れなくても、バックオフィスの体質は変えられる。


このモデルケースについて

この話は、HABAねっとが支援の中で出会ってきた課題をもとに、解決までの流れを再構成したモデルケースです。特定の実在企業の事例ではなく、登場する企業・人物・数値は典型的なパターンを示すために構成しています。

同じ第2段階のモデルケースとして、業務の流れを書き出して二重作業を見つけた「業務の見える化」、スプレッドシート1枚から始めた「スモールスタート」もあわせてどうぞ。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。ホワイトボードや紙、手作業の転記で回っているバックオフィスの仕事を、すでにお使いのGoogle Workspaceで一緒に整えます。

この話のような取り組みは、HABAねっとでは「第2段階 体質改善」としてお手伝いしています。

素早く、手早く、滑らかに。

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