「第1工場でうまくいったから、第2工場でも同じようにやってみたら……」── なぜ横展開は失敗するのか 〜 中小製造業のDX10ステップ【ステップ7:現場への展開】

中小製造業のDX10ステップ ステップ7 現場への展開

── 第2工場への横展開から2ヶ月後

N社長:「第2工場のOさんが、なかなか動いてくれなくて。マニュアルも渡したし、Pさんにも説明してもらったんですが」

幅(支援者):「Oさんは、自分で課題を言葉にしましたか?」

N社長:「……第1工場と同じ課題があるはずだから、と思って」

「そこが、ずれている」と思った。

DXの横展開で、よく起きるパターンがある。

ある現場でうまくいった。「他の部署にも展開しよう」と、成功した現場のマニュアルを渡し、担当者に説明してもらう。

しかし、2ヶ月後に見に行くと、ほとんど動いていない。

展開先の現場リーダーは、やる気がないわけではない。「自分たちの課題」として腹落ちしていないだけだ。


第1工場の成功が、第2工場の「重荷」になった

ある中小製造業(従業員約60名・3工場体制)では、第1工場でステップ1〜6をすべて完了していた。現場リーダーのPさんが中心となって月次ミーティングを「判断会」として運営し、手応えは十分だった。

N社長は「第2工場にも同じものを」と考えた。Pさんに依頼し、第2工場のOさんに向けたレクチャーを設定した。スプレッドシートのテンプレートも渡した。週次チェックのマニュアルも共有した。

しかで2ヶ月後、第2工場の状況は変わっていなかった。Oさんは正直にこう話した。

「正直、第1工場とうちは工程が違うし……Pさんのやり方がそのまま使えるかどうか、よくわからなくて」

Pさんの成功は本物だった。しかしそれは、第1工場の課題・人・流れの中で育ったものだった。マニュアルだけ渡しても、その文脈は伝わらない。

成功事例は「移植」できない。でも「再設計のプロセス」は共有できる。


「移植」をやめて、「再設計」から始めた

仕切り直しのポイントは一つだった。「Oさん自身が課題を言葉にする」ところから始めることだ。

まず、Oさんに1時間のヒアリングをした。「今、第2工場で一番困っていることは何ですか?」

Oさんはしばらく考えてから、答えた。「外注先からの部品の入荷タイミングが読めなくて、その日の作業計画が朝まで決まらないことが多くて……」

第1工場の課題(日報の3重入力)とは、まったく違う課題だった。

この課題を起点に、Oさんが「自分で選ぶ」プロセスをもう一度設計した。ツールも、KPIも、週次チェックの内容も、すべてOさんが決める。PさんはOさんの「壁打ち相手」として関わる。「こういうときはどう考えましたか?」と経験を共有するが、「これをやれ」とは言わない。

Oさんが選んだのは、Pさんとは違うアプローチだった

Oさんが最初に設定したKPIは「入荷予定と実績のズレ件数」だった。第1工場にはなかった指標だ。ツールもGoogleフォームではなく、外注先との情報共有に使えるGoogleスプレッドシートの共有シートを選んだ。

Pさんは「それは思いつかなかった」と言った。第2工場独自の課題から生まれた、第2工場独自の解決策だった。


6ヶ月後、第2工場から「第3工場にも教えたい」という声が出た

再設計から6ヶ月後、第2工場のKPIチェック実施率は88%になっていた。月次ミーティングでも毎回アクションが決まるようになっていた。

そしてN社長から、予想外の報告があった。

「Oさんが、第3工場にも広めたいと言い出して。自分で説明したいと」

横展開が成功するとき、展開先は「成功事例のコピー」になっていない。自分たちで課題を設定し、自分たちで選んだ仕組みを持っている。だから「次も自分たちでやれる」という感覚が生まれる。

横展開が成功するとき、第2工場は第1工場のコピーになっていない。自分たちのDXを持っている。


ステップ7でやること:3つのアクション

1. 「横展開」という言葉を「再設計」に変える

「第1工場と同じようにやろう」という言葉が、展開先の自主性を奈う。展開先の現場リーダーに「あなたの工場の課題は何か」を問うところから始める。同じ会社でも、工場・部署・人が違えば課題は違う。「再設計」という言葉に変えるだけで、現場の関わり方が変わる。

2. 展開先のリーダーに「課題のヒアリング」から始める

マニュアルを渡す前に、1時間のヒアリングを設ける。「今、一番困っていること」「毎日の業務で手間がかかっていること」「情報が見えないせいで困っていること」の3点を聞く。この1時間が、その後のすべての設計の起点になる。

3. 成功したリーダーを「教える人」ではなく「壁打ち相手」として使う

成功した現場のリーダーは「こうすればいい」と教えるのではなく、「うちではこういう問題が起きた」という経験を共有する役割にする。答えを渡さず、問いを一緒に考える。そうすることで、展開先が「自分たちで考えた」という感覚を保てる。


このシリーズについて

「中小製造業のDX10ステップ」は、北陸の中小製造業でのDX伴走支援の経験から、「なぜ多くのDXが途中で止まるのか」「どんな順序で進めれば現場が動くのか」を書いていくシリーズです。

前回(ステップ6)のテーマは「データ活用の入口:数字を意思決定に使う3つの問い」でした。ステップ6を読んでいない方は、そちらから読むと流れが掴みやすいと思います。

次回(ステップ8)は、「外部連携:取引先・外注との情報共有をどう進めるか」を取り上げる予定です。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「一部署でうまくいったのに全社に広がらない」という状態から、横展開の設計まで一緒に整理します。ステップ0の「課題の言語化」から始めるDXを提案しています。

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