「電話で確認してから、なんとかやってるんですが」── 外注先との情報共有がDXで変わるとき 〜 中小製造業のDX10ステップ【ステップ8:外部連携】

中小製造業のDX10ステップ ステップ8 外部連携

── 月曜の朝、製造計画ミーティングの前

Q社長:「また外注のSさんから、今日の入荷が1日遅れるって電話が来て。製造計画、朝から組み直しです」

幅(支援者):「その変更の連絡、どこかに記録されていましたか?」

Q社長:「……Rさんのメモ帳に、書いてあるはずなんですが」

「”はずなんですが”」という言葉が気になった。

外部との情報共有で、よくあるパターンがある。

発注した。納期を確認した。変更の連絡を受けた。すべてが電話・FAX・メールで行われ、特定の担当者のメモやメールボックスに収まっていく。

その担当者が不在のとき、情報はどこにもない。


「電話で確認」が、製造計画の最大リスクになっていた

ある中小製造業(従業員約45名)では、外注先5社との継続取引があった。発注・納期確認・変更対応のすべてを、調達担当のRさんが一手に担っていた。

Rさんは丁寧で仕事が速い。しかし、確認のための電話が週に20件を超えていた。「今週の入荷予定はどうなっていますか?」「先日の発注、受け取っていただけましたか?」電話1本で解決できる内容でも、それを毎週繰り返すコストは積み上がっていた。

そして、ある月曜日に決定的な出来事が起きた。

金曜の夕方、外注先のSさんから「月曜の入荷が1日ずれます」という電話があった。Rさんはメモを取ったが、その日の夕方に体調不良で早退した。月曜の朝、Rさんのメモは机の引き出しの中にあり、製造チームには変更が伝わっていなかった。

製造計画は朝から組み直しになった。

Q社長は最初、「引き継ぎのルールを作ろう」と考えた。しかし私は別の問題を見ていた。引き継ぎのルールを作っても、「引き継ぐべき情報」がRさんのメモとメールに散らばっていれば、引き継ぎ自体が正確にできない。

情報が「Rさんの頭の中」にある間は、Rさんが不在になった瞬間に会社が止まる。


「外注管理台帳」を作り、見せるだけで共有した

取り組みのポイントは一つだった。「Rさんが知っていること」を「誰でも見えるところ」に移すことだ。

Googleスプレッドシートで「外注管理台帳」を作った。列は7つだけにした。外注先名・発注番号・品番・発注日・入荷予定日・実績日・備考。Rさんが毎日更新する。

このスプレッドシートを、外注先5社に「閲覧のみ」のリンクで共有した。Googleアカウントなし、ログインなし、URLを開くだけで見られる設定にした。

外注先に「入力してください」とは一切言わなかった。これが、この取り組みの最も重要なポイントだった。

外注先に「負担をかけない」設計にした理由

外部との情報共有が失敗する最大の理由は、「相手にも何かを入力させようとする」ことだ。外注先は別の会社であり、自社のシステムやルールに従う義務はない。新しいツールへの入力を求めた瞬間、導入のハードルは急上昇する。

外注先に伝えたことは1つだけ。「変更が発生したら、これまで通り電話かメールでお知らせください。台帳はこちらで更新します。発注状況はURLから確認できます」。外注先の行動は何も変えなくていい設計にした。

最初の2週間は、Rさんが「確認の電話をする前に、まず台帳を確認する」習慣に慣れるための期間だった。「電話より先に台帳を開く」というルールを自分に課しただけで、無駄な確認電話の半分が消えた。


6ヶ月後、確認電話が週20件→週3件になった

外注管理台帳の運用を始めて6ヶ月後、状況はこう変わっていた。

確認のための電話は週3件程度になった。電話が減ったのは、「台帳を見れば状況がわかる」からだけではなかった。外注先のSさんが、ある日こう言った。「台帳に入荷予定が載ってるから、電話で聞かれる前にわかってもらえて、こちらも助かってます」

外注先の側でも、「確認のために電話をかけてくる手間」が減っていた。情報が見えていることは、発注元だけでなく外注先にとっても価値があった。

そしてQ社長から、こんな報告があった。「Rさんが有給を取れるようになりました。前は『自分がいないと回らない』と思って、なかなか休めなかったみたいで」

外部連携のDXは、相手の行動を変えることではない。自分たちの情報の在りかを変えることから始まる。

▼ 6ヶ月後の結果

  • 確認電話:週20件 → 週3件
  • 納期起因の製造計画変更:月4件 → 月0〜1件
  • Rさんの確認業務時間:1日1.5時間 → 20分程度

ステップ8でやること:3つのアクション

1. 外注先との「今、見えていない情報」を棚卸しする

まず、外注先とのやり取りで「電話・FAX・メールでしか確認できない情報」を書き出す。発注状況・入荷予定・変更連絡・在庫状況など、担当者に聞かないとわからない情報がどれだけあるかを可視化することが出発点だ。

2. 「外注管理台帳」を作り、まず1社から共有する

Googleスプレッドシートで管理台帳を作り、最も取引頻度が高い外注先1社に「閲覧リンク」を共有する。最初から全社に展開しなくていい。1社との運用で課題を洗い出し、フォーマットを整えてから広げる。

3. 外注先に「入力を求めない」設計にする

外注先に新しいツールへの入力を求めることは、外注先にとっての「コスト」になる。導入の壁を下げるために、情報を更新するのは自社側、外注先は「見るだけ」という設計を徹底する。外注先が自発的に入力したくなったときに初めて、入力欄を開放する順序が正しい。


このシリーズについて

「中小製造業のDX10ステップ」は、北陸の中小製造業でのDX伴走支援の経験から、「なぜ多くのDXが途中で止まるのか」「どんな順序で進めれば現場が動くのか」を書いていくシリーズです。

前回(ステップ7)のテーマは「現場への展開:一部署の成功を全社に広げるとき何が起きるか」でした。ステップ7を読んでいない方は、そちらから読むと流れが掴みやすいと思います。

次回(ステップ9)は、「組織全体への定着:DXを文化にするための仕組み」を取り上げる予定です。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「外注先との情報共有をどこから手をつければいいかわからない」という段階から、仕組みの設計まで一緒に整理します。ステップ0の「課題の言語化」から始めるDXを提案しています。

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