── 業務プロセスの書き出しワーク、ある午後
Bさん(生産管理):「〈受注情報の入力〉……はい、貼りました」
Cさん(営業):「あれ。私も〈受注入力〉って書いたんですが……」
Bさん:「え? Cさんも入力してるんですか?」
しばらく、沈黙があった。

この場面が起きたのは、ある中小製造業(従業員約50名)での業務プロセス書き出しワークの最中だった。
受注情報を「誰が・どこへ・何のために」渡しているかを付箋で書き出してもらったとき、営業担当のCさんと生産管理担当のBさんの両方が「受注入力」という付箋を貼った。
10年以上、同じ内容を2人が別々に入力し続けていた。誰も、二重作業だとは気づいていなかった。
10年間、何が起きていたのか
この工場での受注の流れはこうだった。
顧客からFAXで注文が届く → 営業のCさんが受注管理Excelに内容を入力 → メールで生産管理のBさんに転送 → BさんがExcelの内容を見ながら、生産指示用の別シートに手入力する。
毎日、この流れが繰り返されていた。
Cさんの入力に約20分。Bさんの転記に約20分。合計40分、毎日2人が同じ情報を別々に打ち込んでいた。
月に換算すると約13時間。年間では160時間を超える。
そして、誰もそれを「問題だ」とは思っていなかった。
なぜ、誰も気づかなかったのか
Bさんに理由を聞いた。
「入社したときからこの方法でした。先輩に教わった通りにやってきたので、それが正しいやり方だと思っていました」
Cさんはこう言った。
「Bさんが使いやすい形に整理して渡すのが営業の仕事だと思っていました。生産管理がそのまま使えるように入力するのは当然だと……」
社長は「細かい業務の流れまでは把握していなかった」と言った。
誰も嘘をついていないし、怠けてもいない。全員が「これが正しい方法だ」と信じて、一生懸命働いていた。
問題が放置されていたのは、悪意があったからではない。誰も「全体の流れ」を一度も見たことがなかったからだ。
ステップ0で「課題の言語化」を済ませたことで、「では業務の流れを整理してみよう」という問いが生まれた。その問いがなければ、この二重作業は今も続いていたはずだ。
ステップ1でやること:3つのアクション
「業務の見える化」は、高価なツールを使わなくてもできる。必要なのは、付箋と問いかけだけだ。
1. プロセスを「誰が・何を・どこへ」で書き出す(1〜2時間)
まず、業務ごとに付箋を1枚作る。書くのはシンプルに「誰が」「何を」「誰に(どこへ)」渡すか、の3点だけ。
1人で作るのではなく、関係する全員が集まって書き出すことが重要だ。1人の視点には必ず死角がある。全員が付箋を貼り始めたとき、「え、それ私もやってます」という気づきが起きやすい。
2. 各作業の「時間」と「頻度」を計測する(1週間)
書き出した後、各作業に「何分かかるか」「週何回行うか」を加える。感覚ではなく、1週間だけ実際に測ってみると現実の数字が出る。
ここで初めて、「月13時間」「年160時間」という具体的なコストが見えてくる。感覚で「多い気がする」と言うより、数字で示す方が議論が進みやすい。
3. 「同じことを複数人がやっていないか」を問う
書き出したプロセスを全員で見ながら、「このステップ、他に誰かやっていませんか?」と問う。
二重作業は「悪意なく生まれ、誰も気づかずに定着する」という特徴がある。問いかけることで初めて浮かび上がる。
見える化すると、解決案は現場から出てくる
冒頭のBさんとCさんのケースでは、二重作業が発覚した瞬間にこんなやりとりが生まれた。
「じゃあ、どっちかだけ入力すれば済むんじゃないですか?」
解決策を提案したのは、コンサルタントでも社長でもなく、BさんとCさん自身だった。
結果として、営業のCさんがGoogleスプレッドシートに入力したデータを、生産管理のBさんがそのまま参照する形に変更した。追加のシステム投資はゼロ。設定に1日もかからなかった。
翌週から、毎日40分の二重入力はなくなった。
見える化は、答えを与えることではない。現場の人が自分で答えを見つけられる状態を作ることだ。
このシリーズについて
「中小製造業のDX10ステップ」は、北陸の中小製造業でのDX伴走支援の経験から、「なぜ多くのDXが途中で止まるのか」「どんな順序で進めれば現場が動くのか」を書いていくシリーズです。
前回(ステップ0)のテーマは「課題の言語化」でした。ステップ0を読んでいない方は、そちらから読むと流れが掴みやすいと思います。
次回(ステップ2)は、「小さく始める:最初のデジタル化はExcel1枚から」を取り上げる予定です。
HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「業務の見える化」から「ツール選定」まで、現場の言葉で一緒に整理します。ステップ0の「課題の言語化」から始めるDXを提案しています。
📖 事例レポート版(数値・Before/After形式)は → こちら