
── 支援から半年後、月次ミーティングに同席して
Mさん(工程管理担当):「納期遵守率は先月と同じ90%水準で推移しています。在庫の過不足は先月比でやや改善です」
L社長:「……わかりました。では来月もこの調子で」
「これは、報告会だ」と思った。データはある。でも、何も変わらない。
DXを進めてきた現場でも、こういう場面に出会うことがある。
KPIは設定した。日報もデジタル化した。毎月、数字が出てくる。それなのに、月次ミーティングで「先月と同じ水準です」と確認して終わる。
データが「報告のため」になっている。意思決定に使われていない。
これは、怠慰でも能力の問題でもない。「データをどう読めばいいか」「読んだあとに何をすればいいか」が、誰にも教わっていないだけだ。
「数字は出ているのに、何も決まらない」
ある中小製造業(従業員約35名)では、ステップ1〜5を経て、業務の整理・KPI・定着の仕組み・ツール選定まで順調に進んでいた。日報データも毎日蓄積され、月次ミーティングで数字を確認する習慣も根づいていた。
しかし、ミーティングの中身を見ていると気になることがあった。
Mさんがスプレッドシートを開き、先月との数値を並べて読み上げる。L社長が「わかりました」と言う。「来月もこの調子で」と締める。30分で終わる。
「だから何をするか」が、一度も議論されていなかった。
L社長に聞いた。「数字を見て、何を考えますか?」
「……良いのか悪いのかは、なんとなくわかります。でも、次にどう動けばいいかが、正直よくわからなくて」
データは、集めだけでは何も起きない。問いを立てて初めて、データが答えを出す。
「3つの問い」を、ミーティングに組み込んだ
月次ミーティングのアジェンダに、3つの問いを加えることにした。数字を読み上げた後に、必ずこの順番で問うルールにした。
問い① 「前月比で、何が変わったか?」
「90%水準で推移」ではなく、「先月から+2ポイント上がった」「先月から-1ポイント下がった」という変化を見る。絶対値ではなく、方向と幅を読む習慣を作る。
変化がなければ「なぜ変わらないのか」を問う。変化があれば「何が原因か」を問う。数字の動きが、次の問いを自動的に生み出す。
問い② 「外れ値はどこか? それはなぜか?」
月単位の平均だけを見ていると、週ごと・工程ごとの「外れ」が見えない。「この週だけ納期遅延が集中している」「この工程だけ在庫不足が多い」という局所的な異常を見つけることが、原因特定の入口になる。
外れ値を見つけたら「なぜその週・その工程で起きたのか」を聞く。答えられるなら改善策が立てられる。答えられないなら「来月はそこだけ記録を細かくしよう」という次の仮説が生まれる。
問い③ 「来月、1つだけ変えるとしたら何か?」
データを見て気づいたことを、必ず「来月の行動」に落とす。複数の改善案が出ても、優先するのは1つだけ。「あれもこれも」にしないことで、何が効いたかが検証できる。
この問いを毎月繰り返すことで、「データを見る→問いを立てる→行動を決める→翌月に検証する」という学習サイクルが回り始める。
6ヶ月後、ミーティングが「判断会」になっていた
3つの問いを組み込んでから6ヶ月後、月次ミーティングの様子はまったく変わっていた。
「先月は第3週の納期遅延が突出していました。外注の返却が1日ずれていたことが原因です。今月から外注への指示出しを2日早めています」
MさんがL社長に指示を仰ぐのではなく、自分で原因を特定し、対策を実施し、結果を報告する。L社長は「それで、来月は何を変えますか?」と耸く。Mさんが即答する。
L社長からこんな言葉があった。
「ミーティングが終わった後に、次にやることが決まるようになりました。前は、終わっても何も決まっていなかったので」
月次ミーティングが「報告会」から「判断会」に変わった瞬間、DXは本当に始まる。
ステップ6でやること:3つのアクション
1. 月次ミーティングに「3つの問い」を組み込む
「前月比で何が変わったか」「外れ値はどこか」「来月1つ変えるとしたら何か」の3問をアジェンダに明示的に入れる。「なんとなく数字を眺めて終わる」時間をなくすための仕掛けだ。最初はぎこちなくてもいい。問いを繰り返すうちに、現場が自然に「答え」を準備するようになる。
2. 「小さな発見」を記録・共有する場を作る
月次ミーティングだけでなく、日常の中で気づいたことをメモする習慣を作る。Googleフォームでもスプレッドシートの1列でもいい。「今日、○○が○件あった。いつもより多い気がする」という感覚的な記録が、翌月の外れ値発見につながる。
3. 「仮説→検証→記録」 1サイクル回す
問い③で決めた「来月1つ変えること」を、翌月のミーティングで必ず振り返る。おまくいかなくてもいい。「うまくいかなかった理由」こそが、次の仮説を精度よくする。データ活用は「正解を探す」のではなく「学習サイクルを速くする」ことが目的だ。
このシリーズについて
「中小製造業のDX10ステップ」は、北陸の中小製造業でのDX伴走支援の経験から、「なぜ多くのDXが途中で止まるのか」「どんな順序で進めれば現場が動くのか」を書いていくシリーズです。
前回(ステップ5)のテーマは「ツール選定:なぜ良いシステムが現場に嫌われるのか」でした。ステップ5を読んでいない方は、そちらから読むと流れが掴みやすいと思います。
次回(ステップ7)は、「現場への展開:一部署の成功を、全社に広げるとき何が起きるか」を取り上げる予定です。
HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「データが集まったけど使い方がわからない」という状態から、現場で意思決定が生まれる仕組みの設計まで一緒に整理します。ステップ0の「課題の言語化」から始めるDXを提案しています。
📖 事例レポート版(数値・Before/After形式)は → こちら