「ここまで仕組みができたら、もう値決めは自動でいけますね」
「いや。最後のところは、やっぱり人だよ」
「え、せっかくAIで型にしたのに?」
「型にしたからこそ、人がやるべきことが、はっきり見えてきたんだ」
できるようになったからこそ、線を引く
長い連載も、最終回を迎えました。
ここまで、値決めのさまざまな場面でAIが力になることを見てきました。原価を可視化し、相場を整理し、判断を言葉にし、自分の癖を映し出し、型を動かす。
これだけできるなら、いっそ全部AIに——と思うかもしれません。
ですが、最後にはっきりさせておきたいのです。AIに任せてはいけない一線が、確かにある。
そして、その線を引けることこそが、この連載の本当の結論です。
値決めの後半は、人の領域だ
値決めを時間の流れで見ると、前半と後半に分かれます。
前半は、情報を集め、原価を出し、初期の価格を組み立てる段階。ここは、これまで見てきた通り、AIが大きく助けてくれます。
ですが後半——実際の交渉、そして合意に至る場面。ここは、人の領域です。
なぜか。第6回で確かめたことを思い出してください。
人の意思決定は、論理だけでは動きません。そこには感情があります。
相手が最後に「よし、お願いしよう」と決めるとき、動いているのは価格の妥当性だけではない。この人になら任せられる、という信頼。ちゃんと話を聞いてもらえた、という安心。
その感覚が、最後のひと押しになります。
この信頼や安心は、AIが作り出せるものではありません。
相手の表情を見て、言葉の裏にある不安を汲み、間を取り、時に譲り、時に踏みとどまる。この呼吸は、人にしかできません。
人は、正しいかどうかより先に、安心できるかどうかを判断する。その安心を届けられるのは、人だけだ。
AIに前半を任せる、本当の理由
ここで、話が一周します。なぜ、前半をAIに任せるのか。手を抜くためではありません。後半の、人にしかできない部分に、力を注ぐためです。
原価の計算に半日を費やし、見積書の作成に追われ、疲れきった状態で交渉に臨む。
これでは、いちばん大事な「相手と向き合う」ことに、力が残りません。
前半をAIが引き受ければ、その分の時間と気力を、目の前の相手に向けられます。
つまり、値決めのDXは、人を減らすための話ではありません。人を、人にしかできない仕事に集中させるための話です。
作業から人を解放し、判断と対話に人を戻す。
順番が、逆になってはいけません。
デジタルは、手段にすぎない
この連載を通じて、AIの関わり方は、少しずつ変わってきました。
前半で聞き出し、整理し、中盤で気づかせ、言葉にし、後半で型を生み出した。
そして最終回の今、AIは静かに退場します。
最後の場面には、人が立っています。
この弧が、そのまま、私がDXについて考えていることの全体です。
デジタルは、人に取って代わるものではありません。
人が、より人らしい仕事——考え、向き合い、信頼を築く仕事——に時間を使えるようにするための、手段にすぎない。
値決めという、どの会社にも必ずある仕事を通して、そのことをお伝えしたかったのです。
あなたの会社の値決めも、きっと今、誰かの頭の中にあります。
それは、失われるのを待つ資産ではなく、取り出し、育て、受け継いでいける資産です。
私自身も、まだその途中にいます。
完成した答えを配って回れる立場ではありません。
ただ、同じ問いの前に立つ者として、この連載で考えてきたことが、どこか一つでも、あなたの手がかりになればと思います。
そしてもし、取り出したいベテランの勘が、あなたの会社にもあるなら——その最初の一問を、AIに投げてみるところから、始めてみてください。
長い連載に、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。