利用者からのお便り #12 「AIに話していないことまで、書かれていました」

読者からのご質問

AIに議事録を作らせたら、話していないことまで書かれていました。こわくて、もう使えないなと思っています。私のような素人には、やっぱりまだ早いのでしょうか。(製造業・60代・経営者)

回答

早すぎる、ということはありません。そして「話していないことが書かれていて、こわい」――その感覚は、AIと付き合ううえで一番大切な感覚です。どうか捨てないでください。


お便り、ありがとうございます。

今日はこの二つを、順番にご説明します。

1. 素人だから起きたのではありません

最初にはっきりさせておきたいのは、これは「素人だから起きた失敗」ではない、ということです。

AIが話していないことを書く現象は、使い方が上手な人にも、専門家にも、同じように起きます。原因はあなたの操作ではなく、AIという道具の仕組みそのものにあるからです。

たとえて言うなら、入社したばかりの新人に議事録を頼んだ場面に似ています。

会議の途中、専門用語が聞き取れなかった。前後の文脈もまだ分からない。それでも新人は、空欄だらけの議事録を出すわけにはいかないと思い、聞き取れなかった部分を「たぶんこういう話だったのだろう」と想像で埋めてしまう。

AIも、これとほとんど同じことをします。

ただし、人間の新人と決定的に違う点がひとつあります。新人なら「すみません、ここは聞き取れませんでした」と言えます。

ところが今のAIは、原則として「分かりませんでした」と言いません。分からない部分も、もっともらしい言葉で、自信たっぷりに埋めてくるのです。

この現象には「ハルシネーション」という専門用語がついています。日本語にすれば「もっともらしい作文」です。AIは会議の内容を理解して書いているのではなく、「この流れなら、次はこういう言葉が来そうだ」という確率のつなぎ合わせで文章を作っています。

だから、材料が足りない場所では、それらしい嘘が自然に生まれてしまいます。

2. 議事録は、特に起きやすい仕事です

しかも議事録という仕事は、この「もっともらしい作文」が特に起きやすい条件がそろっています。

第一に、音声が完璧には聞き取れないこと。会議室の雑音、複数人の同時発言、マイクから遠い声。録音の穴は、必ずどこかにあります。

第二に、人間の会話は省略だらけであること。「例の件、あれでいこう」で通じてしまうのが社内の会話です。AIはこの「例の件」「あれ」を、前後から推測して具体的な言葉に置き換えようとします。その推測が外れたとき、「話していないこと」が議事録に現れます。

第三に、議事録は「それらしく」書けてしまうこと。決定事項、担当、期限――型が決まっているぶん、中身が違っていても文章としては成立してしまうのです。

つまり、あなたの会議で起きたことは、議事録という仕事の性質上、いつか必ず起きることでした。運が悪かったのでも、腕が悪かったのでもありません。

3. 「全部チェックしろ」は正論ですが

ここで、よくある正論が出てきます。「AIの出力は、必ず人間が確認しましょう」。

これは正しい。

正しいのですが、実際にやろうとした方ほど、こう感じるはずです。「全部読み直して確認するくらいなら、最初から自分で書いた方が早いのではないか」と。その感覚も、まっとうです。正論だけでは、道具は使えるようにならないのです。

そこで、確認の考え方を変えます。全部を疑うのではなく、間違えられたら困る場所だけを疑う。

議事録で本当に困るのは、実はごく一部です。

  • 決定事項(何を決めたか)
  • 数字(金額、数量、日付)
  • 固有名詞(人名、会社名、製品名)
  • 宿題(誰が、いつまでに、何をやるか)

逆に言えば、話の流れの要約が多少ずれていても、実害はほとんどありません。30分の会議で決まることは、たいてい3つか4つです。上の四点だけを自分の記憶と照らすなら、確認は5分で終わります。

AIには下書きを任せ、判断はこちらが持つ。文章を書く時間はAIに削ってもらい、浮いた時間の一部を「疑う時間」に充てる――役割分担は、これだけです。

4. 慌てなくて大丈夫です

そして、冒頭の話に戻ります。

あなたは「話していないことが書かれている」と気づき、こわいと感じ、いったん手を止めました。この一連の反応は、AIを使ううえで最も危険な落とし穴を、最も安い授業料で通過した、ということです。

一番危ないのは、こわがる人ではありません。疑わずに、そのまま配ってしまう人です。

もしあの議事録に違和感を持たず、そのまま取引先に送っていたら――と考えると、今回の「こわい」は、あなたの会社を守った感覚だったとも言えます。

だから、その感覚を持ったまま、確認する場所を四点に絞って、もう一度だけ試してみてください。道具を捨てる必要はありません。信じ方を変えるだけです。

5. 本当のテーマは「間違える相手と、どう仕事をするか」

最後に、少しだけ話を広げます。

今回の話題はAIを入り口にしていますが、本当のテーマは「間違えるかもしれない相手と、どう仕事をするか」だと、私は考えています。

思い返してみてください。新人に初めて見積もりを任せたとき、いきなり全部を信じたでしょうか。おそらく、金額と納期だけは必ず自分の目で確かめ、任せる範囲を少しずつ広げていったはずです。

完璧な部下を待つのではなく、間違いを前提にした確認の仕組みを作る――それは、経営者であるあなたが何十年もやってきた仕事そのものです。

AIとの付き合い方は、その延長線上にあります。

素人にはまだ早い、どころではありません。「間違える相手に仕事を任せる」経験にかけては、あなたはすでにベテランなのです。

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