この連載も、論考としては今回が最終回です。
これまで、経営者がAIと取る距離を分解してきました。
触れない人、飛びつく人、使いこなす人。そして使いこなすための四つの条件 ・・・課題の言語化、失敗を学習に変えること、時間の見積もり、役割分担 。これらを見つけました。
今回は、この四つが実は、たった一つのことに帰着するという話をします。
結論を先に言ってしまうと、それは「AIの問題」ですらありませんでした。
四つの条件を、並べ直してみる
見つけた四つの条件を、もう一度並べてみます。
- 課題が言葉になっているか。
- 失敗を学習に変えられるか。
- 効果が出るまでの時間を見積もれているか。
- AIと人の役割を分担できているか。
一見、バラバラの条件に見えます。
でも、じっと眺めていると、あることに気づきます。
これらは全部、「自社の業務を、どれだけ構造的に理解しているか」という一点につながっているのです。
課題を言葉にするというのは、自社の業務のどこに問題があるかを特定することです。
役割分担というのは、業務をAIがやる部分と人がやる部分に分解することです。
時間の見積もりも、その業務がどういうプロセスで成果に至るのかを理解していなければできません。
失敗を学習に変えるのも、業務のどこがうまくいかなかったのかを構造的に捉えられて初めて可能になります。
つまり
四つの条件は、すべて「自社の業務を分解し、構造として理解できているか」に帰着する。
ということなのです。
距離を決めていたのは、AIへの態度ではなかった
ここで、連載の最初の問いに戻ります。
「なぜ経営者はAIに対して、こんなに違う距離を取るのか」。
私たちはずっと、これをAIへの態度の問題だと思って見てきました。
怖がる人、飛びつく人、冷静な人。でも、本当に距離を決めていたのは、AIへの態度ではありませんでした。
自社の業務を、どれだけ構造的に理解しているか。それがAIとの距離を決めていたのです。
業務を分解できていない経営者は、課題も言葉にできず、何をAIにさせればいいかも分からない。
だから怖い。あるいは「AIが全部なんとかしてくれる」という幻想にすがる。
逆に、業務を構造として把握できている経営者は、どこにAIが効いて、どこは人がやるべきか、自然に線が引ける。
だから落ち着いていられる。
つまり、AIと上手に付き合えるかどうかは、AIを学ぶ前の段階 で自社の仕事をどれだけ分かっているか ?
これ で、ほとんど決まっていました。これが、この連載でたどり着いた結論です。
「AIをどうするか」より前にやること
だとすると、多くの経営者がAIの前で立ち止まっているのは、実は順番が逆だからかもしれません。
「AIをどう使うか」を考える前に、やるべきことがあります。
自社の業務を、いちど分解して、構造として眺めてみること。
どの仕事が、どんな手順で、何のために行われているのか。
どこに無駄があって、どこが属人化しているのか。
これを見える化するだけで、「ここはAIに任せられそうだ」「ここは人がやるべきだ」という線が、自然と見えてきます。
面白いのは、この作業をすると、結論が「AIを使わない」になることもある、という点です。
業務を分解してみたら、AIを持ち出すまでもなく、手順を変えるだけで解決した。
そういうことも、よくあります。
でも、それでいいのです。
目的は業務の課題を解くことであって、AIを導入することではないのですから。
連載のまとめ
触れない人も、飛びつく人も、使いこなす人も、違いを生んでいたのは「自社の業務をどれだけ構造的に理解しているか」でした。
AIの距離の問題は、突き詰めると業務設計の問題だった。これが、連載の五回をかけてたどり着いた結論です。
この連載は、ここで論考としては完結です。
ただ、一つだけ書き残したことがあります。それは、業務を分解できていない経営者が、いざ一歩を踏み出して、途中で必ず訪れる「幻滅の谷」に落ちたとき、誰がそばにいるかで結末が変わる、という話です。
これは私自身の仕事の話でもあるので、次回、補章として書き添えたいと思います。