経営者とAIの距離(4)実例で確かめる ── 失敗と成功の分かれ目

前回、私は一つの仮説を立てました。

経営者がAIと取る距離は、「課題が先にあるか」と「失敗を学習に変えられるか」の二つで決まるのではないか、と。

今回は、その仮説を実際の事例にぶつけてみます。

使うのは、ウェブ上で公開されているAI導入の事例です。成功したものも、失敗したものも、両方を集めました。

片方だけ見ると、どうしても都合のいい結論になってしまうからです。

さて、私の仮説は事例の前で生き残れるでしょうか。

失敗事例に、仮説を当ててみる

まず失敗事例から。よく報告されているのが、こういうケースです。

IT・会計系のある事業所が、代表者がセミナーでAIツールを知り、翌月には全社導入を宣言した。しかし現場の抵抗にあい、半年後の利用率は二割程度にとどまった。

これは仮説どおりです。

課題が先にあったのではなく、外からの刺激で「導入」が目的化した。第2話で見た過剰反応型の典型で、課題の言語化という軸が欠けていました。

製造業の例もあります。

業界紙でAI品質検査の記事を見たことがきっかけで導入を進めたものの、「どの工程の、どの不良を、何パーセント減らしたいのか」という問いに答えられないまま着手し、相応の費用を投じたのに効果を検証できず、半年で凍結した。

これも課題が言葉になっていなかった例です。

ここまでは、私の二軸でうまく説明できます。

仮説が綻んだ、一つの事例

ところが、説明できない事例に出くわしました。これが今回の山場です。

ある卸売業が、在庫コストの削減という明確な目標を立てて、需要予測のAIを導入しました。

課題ははっきりしている。目標も数値で置いている。

第3話の仮説でいえば、これは「使いこなす人」に分類されるはずのケースです。

ところが、三か月たっても予測の精度が期待値に届かず、経営陣は「効果がない」と判断して撤退を決めました。失敗です。

私の二軸では、これを説明できません。課題はあった。学習する姿勢もあったはずです。それなのに失敗した。

ここで、ある分析が目に留まりました。

実は、この種の需要予測AIは、導入から五か月ほどで精度が急に上がりはじめるモデルだった、というのです。

つまり三か月時点は、まだ学習の途中。

撤退したタイミングは、ちょうど効果が出はじめる直前でした。

あと二か月、待てていたら成功していたかもしれない。

課題もあった。学習する気もあった。

それでも撤退した。足りなかったのは「効果が出るまでの時間を知らなかった」ことでした。

三つ目の軸 ── 時間の見積もり

この事例が教えてくれたのは、私の二軸には抜けがあった、ということです。

「課題の言語化」と「学習」だけでは足りない。三つ目に、「効果が出るまでの時間を、現実的に見積もれているか」という軸が要るのです。

実際、複数の事例が同じことを示していました。

AIの費用対効果がはっきりするのは、導入から半年から一年後というのが一般的だと。

短期で成果を求めるほど、失敗のリスクは高まる。

前回、私が「二軸で説明できない失敗があるのでは」と引っかかっていたのは、まさにこのことでした。

谷の深さと長さを、あらかじめ知らされていない。

だから谷のいちばん底で、もう少しで抜けられるという地点で、撤退してしまう。

これは経営者の姿勢の問題というより、体験が乏しいことによる誤認という避けられないものです。

私がスモールスタートを勧めるもう一つの理由には、小さな成功体験を積み、理解を深めることがあります。このような誤認も、スモールスタートによりある程度緩和させることができます。

成功事例には、もう一つの共通点があった

失敗事例だけ見ていたら、ここで終わっていましたが、合わせて成功事例も並べたことで、もう一つ、思いがけない共通点が見えてきました。

成功している事例は、ほぼ例外なく「AIと人の役割分担」を最初に決めていたのです。

たとえば、ある企画提案の業務では、情報収集や下書きはAIが担い、最終的な判断と仕上げは人がやる、と線を引いていた。

その結果、作業時間が大きく減った。

製造業の外観検査でも、AIが疑わしい箇所を拾い、最終判断は人がする、という分業が機能していました。

AIが得意なのは、パターン認識、データ集計、文章生成、定型作業。

苦手なのは、最終判断、創造的な企画、人間関係の構築。

この線引きを最初にやっておくと、AIは強力な相棒になります。

そして気づいたのは、この「役割分担」は、第2話で見た過剰反応への歯止めにもなっている、ということです。

「ここはAI、ここは人」と線を引く作業そのものが、「AIが全部やってくれる」という万能感を解除してくれる。

だから失敗した過剰反応型の事例は、この線引きをしていなかったのです。

第4話のまとめ

実例にぶつけた結果、三つのタイプという骨格は妥当でした。

でも、使いこなす人の条件は二つでは足りなかった。「課題の言語化」

「失敗を学習に変える」

に加えて、

「時間を現実的に見積もる」

「AIと人の役割を分担する」。

この四つがそろって、はじめてうまくいく。

仮説が事例の前で綻び、そこから二つの軸が補われた。

この過程こそ、私がいちばんお伝えしたかったところです。

きれいな結論をそのまま信じず、具体例で確かめる。すると、整理が一段深くなる。

このような行動は、SNSや広告に煽られたり焦ったりせず、自社の状態を見定める時にも使えます。

さて次回は最終回。

この四つの条件が、実は全部、たった一つのことに帰着するという話をします。

それは「AIの問題」ですらなかった、という結論です。

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