第1回 変革は運か、準備か (この記事)
第2回 頑張る経営者ほど気づけない
第3回 眠っている問題解決能力
第4回 善意のガバナンスは、なぜ妨害工作と見分けがつかなくなるのか
第5回 覚悟の非対称性
第6回 きれいごとが信頼を壊す
第7回 DXは変革の試金石
第8回 AI導入という最終試験(前編)
第9回 AIを根づかせる組織(後編)
経営者「うちの会社、なかなか変わらないんですよ」
経営者「変わる会社って、結局は運がいいだけじゃないですか。たまたまいい人材がいた、たまたまタイミングが良かった。そういうことでしょう」
ITC「本当にそうでしょうか。私は、変われる会社には共通点があると思っているんです」
経営者の方とお話ししていると、必ずと言っていいほどこの話題になる。「変わりたいのに変われない」。その嘆きは、規模や業種を問わず、驚くほど似た形をしている。
そして多くの方が、心のどこかでこう思っている。変革に成功した会社は、運が良かったのだと。優秀な人が偶然集まった、市場の波にうまく乗れた、たまたま良い相談相手がいた。だから、自分の会社が変われないのも仕方がない、と。
この連載は、その「仕方がない」に異を唱えるところから始めたい。
偶然は、準備した者にだけ微笑む
結論から言えば、変革に運の要素がまったくないとは言わない。タイミングも、出会いも、確かに存在する。だが、決定的なのはそこではない。
変革が進む職場と、進まない職場。両者を分けているのは「準備ができているかどうか」だ。同じ偶然が訪れても、準備のある職場はそれを掴み、準備のない職場は取りこぼす。チャンスはどちらの会社にも等しく訪れている。違うのは、それを活かせる状態にあるかどうかだけなのだ。
これは、私が中小製造業の現場を歩いてきて得た、ほとんど確信に近い実感だ。
たとえば、ある会社に画期的な改善のヒントがもたらされたとする。新しい設備の話でもいい、補助金の公募でもいい、優秀な人材の応募でもいい。準備のある会社は「これだ」と即座に動ける。なぜなら、自社のどこに問題があり、何が足りないのかを、すでに把握しているからだ。
ところが準備のない会社では、同じヒントが宙に浮いたまま流れていく。「うちには関係ない」「忙しくてそれどころじゃない」「誰が担当するんだ」。そうこうしているうちに、好機は別の会社のものになる。
運を呼び込んでいるように見える会社は、実は運を掴める状態を、地道に準備していただけなのだ。
「土台」とは何か
では、その準備とは具体的に何を指すのか。私は大きく三つあると考えている。
一つ目は、自社の状態をデータで把握していること。勘や経験ではなく、数字で「今こうなっている」と言える状態だ。売上や利益だけではない。歩留まり、リードタイム、在庫金額、離職率——自社の健康状態を測る指標を持っているかどうか。
二つ目は、ボトルネックがどこにあるかを掴んでいること。会社の流れがどこで詰まっているのか。どの工程が、どの部署が、どの判断が、全体の足を引っ張っているのか。これが見えていれば、改善の打ち手は自ずと定まる。
三つ目は、課題が組織内で共有されていること。経営者だけが問題を感じていても変革は起きない。現場の一人ひとりが「ここを良くしたい」という当事者意識を持てているか。その温度が組織に行き渡っているかどうかだ。
この三つが揃った職場は、好機が訪れたとき迷わず動ける。
逆に言えば、この三つが欠けたまま「変わろう」と号令をかけても、組織は動かない。土台のない場所に建物は建たないのと同じだ。
それでも、変われない
ここまでは、おそらく多くの方が頷いてくださると思う。準備が大事だ、土台が大事だ——その通りだ、と。
しかし、話はそう簡単ではない。もし準備の大切さを理解するだけで変われるなら、世の中の会社はとっくに変わっている。現実には、その大切さを誰よりも理解している経営者が、誰よりも一生懸命に旗を振りながら、それでも組織が動かずに苦しんでいる。
なぜ、頑張っているのに変われないのか。なぜ、正しいことをしているはずなのに、組織はついてこないのか。
この連載で掘り下げたいのは、まさにここだ。変革を阻むものの正体を、経営者の側、幹部社員の側、そして組織の仕組みの側から、一つずつ見ていきたい。
そして最終的には、その変革論を「DX」、とりわけ「AIの導入」という、いま多くの中小企業が直面しているテーマに接続していく。なぜなら、AIの導入こそ、その会社が本当に変われる組織なのかを映し出す、最も正直な鏡だからだ。
次回は、変革の最前線に立つ「頑張る経営者」が、なぜその頑張りゆえに気づけなくなるのか——その逆説から話を始めたい。
HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。組織が「変われる状態」になっているか——その土台づくりから、私たちは一緒に考えます。「ツール選定」ではなく「課題」「業務」「人」から設計するDXを、一緒に組み立てます。