「良くなっている気はするんですが」── 数字で見えた瞬間、現場が変わった 〜 中小製造業のDX10ステップ【ステップ3:KPI設定】

── 月次ミーティング、工場の会議室で

E社長:「なんか、DXが進んでいる気はするんですよ。でも、どのくらい良くなったかよくわからなくて」

幅(支援者):「では、何を測りたいですか?」

E社長:「……測る、ですか?」

「測る」という発想が、E社長にはなかった。

DXを進めていると、こういう状態になることがある。

何かが変わった。確かに良くなっている。でも、「どのくらい」が見えない。改善が続いているのか、止まっているのか、加速しているのかがわからない。

そして、わからないから「次に何をすればいいか」も判断しにくくなる。


「感覚」で動いていた工場の、ある限界

ある中小製造業(従業員約40名)では、ステップ1・2を経て業務の流れが整理され、いくつかの二重作業も解消されていた。現場の雰囲気も明るくなっていた。

しかし、月次ミーティングでこんな言葉が出た。

「先月より納期遅延が減った気がするんですが、実際のところどうなんでしょう。Fさん、感覚でいうと?」

「そうですね……減ってる気はしますね」

「気がする」と「気はする」で会議が終わっていた。改善を積み重ねてきたのに、それを確認する手段がなかった。

これは、怠慢ではない。「測る」という文化がなかっただけだ。

測らなければ、改善しているかどうかわからない。わからなければ、次の一手も打てない。


KPIを3つだけ選んだ

「KPI」と聞くと、大企業の経営会議で使うような難しいものに聞こえるかもしれない。でも、やることはシンプルだ。「何を、どのくらい、いつまでに改善したいか」を数字で決めるだけだ。

この会社でE社長と一緒に選んだのは、3つだけだった。

選んだKPI(3つ)

納期遵守率(月ごとの納期通りに出荷できた割合)

在庫の過不足件数(月ごとの在庫不足または過剰在庫の発生件数)

二重入力の発生件数(月ごとの、同じ情報を複数回入力したケース数)

「もっとたくさん測った方がいいですか?」とE社長は聞いた。

「最初は3つで十分です。むしろ3つに絞ることが大事です」と伝えた。

KPIが多すぎると、管理のための管理が始まる。数字を集めること自体が目的になり、肝心の改善が後回しになる。


数字が見えると、現場の動き方が変わる

KPIを設定して最初の月。納期遵守率を集計したところ、82%だった。

「あれ、思ったより低いですね」とFさんが言った。「感覚だと90%くらいかと思っていました」

この「ズレ」が重要だった。感覚と実態が違っていたことが、初めて可視化された。

「どの工程で遅延が多いですか?」という問いが生まれ、データを見直すと、外注から戻ってくるタイミングが原因の遅延が全体の6割を占めていた。

次の月のミーティングでは、「外注への指示出しを2日早める」という具体的な対策が生まれた。コンサルタントが提案したのではなく、Fさん自身が「それをやれば変わると思います」と言い出した。

3ヶ月後の納期遵守率は94%になっていた。

数字は、答えを教えてくれるのではない。「正しい問い」を立てるための地図だ。


ステップ3でやること:3つのアクション

1. 「現状の問題」を数値化できる指標を1〜3つ選ぶ

ステップ1・2で見えてきた課題の中から「数字で測れるもの」を選ぶ。「納期遅延」「在庫不足」「入力ミス」「クレーム件数」など、現場に身近なものでよい。

大切なのは「測りやすいもの」を選ぶこと。理想的な指標より、継続して集計できる指標の方が価値がある。完璧な指標を探すより、まず測り始めることが先だ。

2. 「今の数字(ベースライン)」を記録する

KPIを決めたら、まず「今はどのくらいか」を測る。ここで多くの企業が躓く。「過去のデータがない」という状況だ。

その場合は、直近1ヶ月だけ手で集計してみる。精度は低くてもいい。「だいたい何件くらい」という概数から始めれば十分だ。ベースラインがあれば、改善が見えるようになる。

3. 月次で数字を確認する場を作る(30分だけ)

KPIは設定するだけでは意味がない。月に1回、30分だけ「先月の数字はどうだったか」「何が原因か」「来月何をするか」を話し合う場を作る。

この30分が、現場に「測ることが当たり前」という文化を育てる。最初は数字を読むのに時間がかかっても、3ヶ月続けると自然とスムーズになる。


このシリーズについて

「中小製造業のDX10ステップ」は、北陸の中小製造業でのDX伴走支援の経験から、「なぜ多くのDXが途中で止まるのか」「どんな順序で進めれば現場が動くのか」を書いていくシリーズです。

前回(ステップ2)のテーマは「スモールスタート」でした。ステップ2を読んでいない方は、そちらから読むと流れが掴みやすいと思います。

次回(ステップ4)は、「定着の仕組み:なぜ現場は3ヶ月で元に戻るのか」を取り上げる予定です。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「何を測ればいいかわからない」という状態から、現場に合ったKPI設計まで一緒に整理します。ステップ0の「課題の言語化」から始めるDXを提案しています。

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