覚悟の非対称性|連載「変わる組織、変われない組織」第5回

📖 連載「変わる組織、変われない組織」(全9回)
第1回 変革は運か、準備か
第2回 頑張る経営者ほど気づけない
第3回 眠っている問題解決能力
第4回 善意のガバナンスは、なぜ妨害工作と見分けがつかなくなるのか
第5回 覚悟の非対称性 (この記事)
第6回 きれいごとが信頼を壊す
第7回 DXは変革の試金石
第8回 AI導入という最終試験(前編)
第9回 AIを根づかせる組織(後編)

経営者「どうして社員は、私と同じ覚悟を持ってくれないんでしょう」

経営者「私はこの会社に人生を懸けている。なのに、社員はどこか他人事なんです」

ITC「それは当然かもしれません。あなたと社員とでは、覚悟の“前提”がまるで違うのですから」

前回、善意のガバナンスが組織を硬直させ、挑戦を罰する場所では誰も覚悟を持たなくなる、と書いた。今回はその「覚悟」そのものを正面から扱う。

多くの経営者が、心のどこかでこう嘆いている。「なぜ社員は、自分と同じ覚悟を持ってくれないのか」。だが、この問い自体に、実は構造的な無理がある。経営者と社員とでは、覚悟が生まれる前提がまったく違うからだ。これを「覚悟の非対称性」と呼びたい。

辞められるか、辞められないか

経営者と社員を分ける、最も根本的な違いは何か。それは「会社を辞められるかどうか」だ。

経営者は、辞められない。借入の個人保証があり、社員の生活があり、取引先への責任がある。逃げ場がない。一方、社員は——幹部であっても——構造的には辞められる。別の会社に移るという選択肢が、常に手元にある。

この退路の有無が、そのまま覚悟の質の違いになる。経営者の覚悟は、逃げ場のなさが生む「構造的に強制された覚悟」だ。選んだというより、選ばざるを得ない。腹が据わるのは、据わるしかないからでもある。

対して社員の覚悟は、まったく別物だ。構造的には辞められる以上、覚悟を持つかどうかは本人の意思に委ねられている。誰にも強制されない。だから社員の覚悟は、本質的に「自発的にしか生まれない覚悟」なのだ。

経営者の覚悟=逃げ場のなさが生む「強制された覚悟」
社員の覚悟=本人の意思による「自発的な覚悟」
この二つは、生まれる仕組みからして違う。

「同じ覚悟を持て」が無理筋な理由

ここまで来ると、冒頭の嘆きがなぜ無理筋なのかが見えてくる。経営者が社員に「自分と同じ覚悟を持て」と求めること。それは、強制された覚悟を、強制なしに持てと言っているに等しい。前提が違うものを、同じにしろと迫っているのだ。

経営者と同じ覚悟を持てるのは、同じ前提に立つ人——共同経営者か、後継者くらいだ。一般の社員に同じ覚悟を期待すれば、経営者は永遠に失望し続けることになる。期待値の設定そのものが、最初から間違っている。

では、どうすればいいのか。ここから、二つの実践的な結論が導かれる。

一つ目。経営者は、社員に「自分と同じ覚悟」を求めるのをやめる。代わりに「社員なりの覚悟」を求める。つまり、委ねられた範囲で結果に責任を持つ覚悟だ。会社全体を背負う覚悟ではなく、自分の持ち場に対する覚悟。これなら、社員にも持つことができる。

二つ目。社員の覚悟は自発的にしか生まれない以上、経営者にできるのは「覚悟を持ちたくなる環境」を作ることだけだ。権限を委ねる。挑戦を任せる。そして失敗の責任は、経営者が引き受ける。そういう環境の中で、社員は初めて自分から覚悟を持とうとする。

覚悟は、引き出すもの

結局のところ、覚悟は要求するものではない。引き出すものだ。

「もっと当事者意識を持て」「もっと本気でやれ」。そう叫んでも、覚悟は湧いてこない。むしろ、強制された覚悟の押し付けは、第2回で見た「無言の圧力」と同じ働きをして、社員を遠ざける。覚悟は、命令で生まれるものではないからだ。

前回の善意のガバナンスの話とも、ここでつながる。挑戦が罰せられ、失敗が個人の責任に帰される組織では、誰も自発的な覚悟など持とうとしない。逆に、挑戦が歓迎され、失敗を組織が引き受ける場所では、覚悟は自然と芽生えてくる。覚悟を引き出せるかどうかは、結局、組織がどういう環境を用意しているかにかかっている。

ところで、ここまで「失敗を引き受ける」「挑戦を歓迎する」と何度も書いてきた。だが、これを口で言うのは簡単でも、実際にやるのは恐ろしく難しい。むしろ、立派な理念を掲げる会社ほど、現場との落差が大きくなることさえある。次回は、その「きれいごと」が、いかにして信頼を壊していくかを見ていく。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。社員が「自分の持ち場の覚悟」を持てる環境とは何か——権限委譲と仕組みの設計から、一緒に考えます。「ツール選定」ではなく「課題」「業務」「人」から設計するDXを、一緒に組み立てます。

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