きれいごとが信頼を壊す|連載「変わる組織、変われない組織」第6回

📖 連載「変わる組織、変われない組織」(全9回)
第1回 変革は運か、準備か
第2回 頑張る経営者ほど気づけない
第3回 眠っている問題解決能力
第4回 善意のガバナンスは、なぜ妨害工作と見分けがつかなくなるのか
第5回 覚悟の非対称性
第6回 きれいごとが信頼を壊す (この記事)
第7回 DXは変革の試金石
第8回 AI導入という最終試験(前編)
第9回 AIを根づかせる組織(後編)

経営者「うちは『失敗を恐れず挑戦しよう』を理念に掲げているんです」

経営者「でも、なぜか誰も挑戦しない。理念が浸透していないんでしょうか」

ITC「浸透していないのではなく、見抜かれているのかもしれません。言葉と行動が、違っていることを」

前回まで、変革を阻む構造を、経営者・幹部・仕組み・覚悟という四つの角度から見てきた。第1部の最後となる今回は、それらすべてに通底する一つの問題を扱う。「きれいごと」だ。

立派な理念を掲げること自体は、悪いことではない。問題は、その理念と実際の行動がずれているとき、組織にどんな影響が及ぶかだ。結論から言えば、きれいごとは、信頼を壊す。しかも、掲げれば掲げるほど壊していく。

見抜かれる瞬間

きれいごとを口にする人ほど、自分がそれを実践できていないことに気づいていない。本人は本気で「挑戦しよう」「風通しよくしよう」と言っている。だが、その言葉と日々の行動が食い違っていると、部下は驚くほど早く見抜く。

「挑戦しよう」と言いながら、失敗した者を責める。「意見を聞かせてほしい」と言いながら、異なる意見に不機嫌になる。一度でもこうした場面を見れば、部下は学習する。「ああ、これは本気じゃないな」と。

その瞬間、何が起きるか。理念だけでなく、その人が発するすべての指示の信頼性が失われる。言葉と行動が違う——一度そう判断されると、以降は何を言っても「どうせ建前だろう」と受け取られる。信頼は、こうして静かに崩れていく。

最も悪いのは、きれいごとで人を動かそうとすることだ。部下は「言っていることとやっていることが違う」と感じながら、半ば強制的に動かされる。その感覚は、モチベーションを確実に削る。立派な理念を掲げる会社ほど現場との落差が大きくなる、という逆説は、ここから生まれる。

「失敗を許容しろ」が機能しない理由

ここで、避けて通れない難問に突き当たる。「失敗を許容する文化が大事だ」——これは正しい。だが、現実にはほとんど機能しない。なぜか。

リーダーが「失敗を許容しろ」と言っても、部下の失敗が自分の評価に跳ね返ってくる仕組みのままなら、その言葉は信じられない。口では「挑戦しろ」と言いながら、実際には「失敗するな」という空気が漂う。だから誰も動かない。これは、部下が臆病なのではなく、リーダー自身も構造に縛られているからだ。

多くのリーダーにとって、部下の失敗は自分の責任問題になる。部下が失敗すれば、自分の立場が危うくなる。その状況で「失敗を許容しろ」と求めるのは、自分にとって不利なことをやれと言うのと同じだ。だから、口では「はい」と言っても、行動が伴わない。誰も本気で従わない。

「失敗を許容しろ」という言葉だけでは動かない。
部下の失敗が上司の評価に跳ね返る仕組みのままでは、それはきれいごとに過ぎない。

言葉ではなく、仕組みと行動で

では、どうすればきれいごとを本物に変えられるのか。二つの方向がある。

一つは、評価の仕組みそのものを変えることだ。「失敗がなかったこと」を評価するのをやめ、「失敗からどう学んだか」を評価する。挑戦して失敗した人が、何もしなかった人より低く評価される——その構造を放置したまま「挑戦しよう」と言っても、何も変わらない。理念を本気にするなら、評価の物差しを理念に合わせる必要がある。

もう一つは、リーダー自身が行動で示すことだ。とりわけ「自分の失敗を認める」という行動が効く。リーダーが「あれは自分の判断ミスだった」と率直に認める姿を見せたとき、初めて部下は「ここでは失敗を認めても大丈夫なんだ」と感じる。言葉ではなく、行動が文化をつくる。

本物の変革は、ここでも地味だ。経営者が「自分も失敗する」と認める。幹部が「やってみたい」と言える空気を整える。小さな成功を一つずつ積み重ねる。派手な号令ではなく、そうした泥臭い繰り返しの中でしか、信頼は育たない。

ここまでが第1部、組織変革論の本体だ。気づけない経営者、動けない幹部、善意のガバナンス、覚悟の非対称、そしてきれいごとの罠。これらはすべて、人と組織の普遍的な構造の話だった。

第2部からは、この変革論を、いま中小企業が直面する具体的なテーマ——DX、そしてAIの導入に接続していく。なぜなら、ここまで語ってきたすべての論点が、DXの現場で容赦なく再現されるからだ。次回からは、DXがなぜ「変革の試金石」になるのかを見ていく。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。理念と現場の落差を埋めるのは、言葉ではなく仕組みと行動です。その設計を、外部の立場からお手伝いします。「ツール選定」ではなく「課題」「業務」「人」から設計するDXを、一緒に組み立てます。

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