眠っている問題解決能力|連載「変わる組織、変われない組織」第3回

📖 連載「変わる組織、変われない組織」(全9回)
第1回 変革は運か、準備か
第2回 頑張る経営者ほど気づけない
第3回 眠っている問題解決能力 (この記事)
第4回 善意のガバナンスは、なぜ妨害工作と見分けがつかなくなるのか
第5回 覚悟の非対称性
第6回 きれいごとが信頼を壊す
第7回 DXは変革の試金石
第8回 AI導入という最終試験(前編)
第9回 AIを根づかせる組織(後編)

経営者「現場の人間は、言われたことしかやらないんですよ」

経営者「もっと自分で考えて動いてほしいのに、誰も提案してこない。問題意識がないんでしょうか」

ITC「いえ。気づいていないのではなく、言えないだけかもしれません。それは、まるで別の問題です」

前回は経営者の側を見た。今回は、経営と現場の間に立つ幹部社員——課長、係長、現場リーダーといった中間層に目を向ける。

経営者の問題が「気づけない」ことだったとすれば、幹部の問題はまったく質が違う。彼らは気づいている。むしろ、組織の中で最もよく気づいている。それなのに動けない。この「気づいているのに動けない」という構造こそ、中間層が抱える固有の難しさだ。

最もよく見えている人たち

幹部社員は、毎日現場にいる。だから、どこに無駄があるか、どこが詰まっているか、顧客が何を言っているかを、誰よりもよく知っている。経営者が会議室で議論している課題の答えを、現場の彼らはすでに肌で感じていることが多い。

同時に、彼らは経営の意図も理解している。上が何を目指し、何を求めているか。つまり中間層は、経営と現場の両方が見える、唯一の立ち位置にいる。本来であれば、変革の起点になりうる人たちなのだ。

その彼らが持っている現場の知見は、組織にとって宝と言っていい。どんな高価なコンサルティングよりも、現場で毎日働く人の「ここが変だ」という感覚のほうが、はるかに正確なことがある。

なぜ、宝が眠るのか

ところが、その宝は多くの場合、使われないまま眠っている。なぜか。能力がないからではない。出さなくなっているのだ。

理由は三つある。一つ目は「上は自分の考えを持っている」という遠慮。経営者がすでに方針を決めているように見えると、異なる意見は言いにくい。二つ目は「目立ちたくない」という心理。下手に提案して目をつけられるくらいなら、黙っていたほうが安全だと感じる。三つ目は「失敗したくない」という恐れ。提案が通って実行し、もし失敗すれば、その責任は自分に返ってくる。

これらが重なると、幹部は「言わぬが仏」を選ぶようになる。気づいていることを口にしないほうが、組織の中で生き延びやすい。そう学習してしまう。結果として、現場の知見は宝の持ち腐れとなり、上と現場のギャップはそのまま放置される。

経営者の問題は「気づかない」。中間層の問題は「気づいても動けない」
能力が失われたのではなく、使わないことを学習してしまっている。

これは雇用関係だからこそ、より深刻になる。経営者は逃げられない立場ゆえに腹をくくれるが、幹部は「波風を立てるより、無難にやり過ごす」という選択肢を常に持っている。そして多くの場合、無難なほうが合理的に見えてしまうのだ。

眠りを覚ますのは誰か

では、眠った能力をどう呼び覚ますか。ここで重要なのは、それは幹部本人の努力ではどうにもならない、という点だ。鍵を握っているのは経営者の側にある。

経営者がやるべきことは、まず「君たちの現場の見方を本気で聞きたい」と示すことだ。口先だけでは見抜かれる。実際に提案を吸い上げ、形にしてみる。そして、うまくいったら素直に褒める。失敗しても、決して責めずに学びへと変える。

この繰り返しによって、幹部は少しずつ「ここでは言っても大丈夫だ」と感じ始める。提案が歓迎され、挑戦が罰せられない。その実感が積み重なったとき、初めて眠っていた問題解決能力が表に出てくる。

つまり、中間層が動けるかどうかは、経営者が「課題提起を歓迎する文化」を本気で作れるかにかかっている。それがなければ、どれほど優秀な幹部を揃えても、その力は眠ったままだ。

もっとも、ここで一つの疑問が湧く。幹部はなぜ、それほどまでに「失敗」を恐れるのか。なぜ「無難にやり過ごす」ことが合理的になってしまうのか。実はその答えは、個人の臆病さではなく、組織の仕組みの側にある。次回は、良かれと思って導入された「管理の仕組み」が、いかにして現場から挑戦を奪っていくか——その正体に踏み込む。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。現場に眠る知見を引き出し、改善の動線に乗せる仕組みづくりを、外部の立場からお手伝いします。「ツール選定」ではなく「課題」「業務」「人」から設計するDXを、一緒に組み立てます。

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