その KPI、改善につながっていますか? 〜 生産管理・現場管理職が果たすべき「測定責任」

Japanese realistic anime style, cinematic lighting, a high-stakes, tense atmosphere. Inside a dimly lit conference room, a stern Japanese CEO (male, 60s, suit, arms crossed, sharp gaze) is seated at the head of a long table, looking intensely at the other attendees. Behind him on the wall is a large projection screen displaying a detailed dashboard of multiple KPI graphs (line charts, bar graphs, etc.) with titles like "KPI報告 (歩留まり, 稼働率, 不良率)". Seated at the table are tense attendees, including a Factory Manager (male, 50s, work uniform, nervous), Manufacturing Foreman (male, 40s, work uniform, hesitant), QA Lead (female, 30s, work uniform, anxious), all looking down or frozen in silence, looking uncomfortable, immediately after the CEO spoke. A heavy silence fills the air. Laptops, notebooks, water bottles are on the table. Signs like "月次生産会議" and "中小製造業" are visible.

ある中小製造業の月次の生産会議。会議室のスクリーンには、ずらりと並んだ KPI のグラフ。

工場長「歩留まりは先月より0.3ポイント改善しました」

製造係長「設備稼働率は計画比98%です」

品質管理担当「不良率は目標範囲内に収まっています」

社長「……それで、この数字、来月どうやって動かすつもりだ?」

(沈黙)

このすれ違い、生産管理の現場でよく見る光景である。

「測ること」が目的化している現場

生産管理・現場管理職が陥りやすい状態がある。それは、KPI を測ること自体が、毎月のルーティンになっている状態だ。

毎月、決まった指標を集計する。グラフを作る。会議で報告する。先月との比較を口頭で添える。それで、その月の生産管理業務は完了する。

これは仕事として真面目に回っている。だが、ここで立ち止まって問うてほしい。

その KPI を測った結果、来月の現場のどの行動が変わるのか。

この問いに即答できない指標が並んでいるなら、その KPI は 「測ること」が目的化している 可能性が高い。

なぜ KPI 測定は儀式化するのか

ある中小製造業を例に取ろう。10年前に「見える化」のために導入された KPI セットが、いまも毎月そのまま集計され続けている。

当時は、現場に「数字を見て改善する」という文化を根付かせるために、わかりやすい指標を厳選した。歩留まり、稼働率、不良率、リードタイム。これらは導入当初、現場の改善活動を引っ張る役割を果たしていた。

ところが、10年経つうちに、製品構成も、設備構成も、改善のフェーズも、現場の課題も大きく変わった。それでも、KPI セットは当時のままだ。

理由は単純で、「やめる責任者」が誰にも任命されていないからである。

KPI を增やす提案は誰でもできる。「これも測ったほうがいい」という会議の発言は、誰も否定しない。だが、「これはもう測らなくていい」という提案は、誰もしない。やめる決断は、ときに誰かの過去の貢献を否定するように見えるからだ。

結果として、KPI の数だけが增え続け、現場は集計作業に追われ、改善のための時間は奪われていく。

改善につながる KPI と、ただ眺める KPI

ここで、現場管理職が日常的に意識すると有効な区別を整理してみる。

観点改善につながる KPIただ眺める KPI
設計の起点現場の課題から逆算一度決めたまま継続
数字の使い道来月の行動を変える会議の報告で完結
異常値が出たとき原因究明と対策がセット「次は気をつけます」で終わる
担当者の意識自分の判断材料経営層に出す資料
改廃の運用課題が変われば見直す一度決めたら継続が前提

両者は同じ「KPI」と呼ばれている。しかし、現場での意味合いは全く違う。

改善につながる KPI は、現場の意思決定を支える道具である。今週どの工程に人を厚く配置するか、どの設備の保全を前倒しするか、どのロットを優先するか。こうした判断のために、リアルタイムに近い情報として使われる。

ただ眺める KPI は、月次会議の体裁を整えるためのレポーティング指標である。先月との比較を口頭で添え、グラフを見て頑き合って、会議が終わる。来月の行動は何も変わらない。

問題は、現場のすべての KPI が、知らないうちに後者に流れていきやすい ということだ。

KPI を「やめる責任」を誰が持つか

KPI を新しく增やすことは、提案として歓迎されやすい。「データを取って判断したい」という意欲の表れだからだ。

しかし、KPI を増やせば増やすほど、改善に使われる KPI の比率は下がる。集計の手間が増え、会議が長くなり、現場が「数字を作る作業」に追われていく。改善のための余白が、KPI そのものに圧迫される。

ここで、現場管理職にしか担えない役割がある。

KPI を「やめる」決断である。

経営層からは「いろいろ測ってデータを集めよう」という指示が出る。経理からは「決算用に集計しているのでこれは続けてほしい」という依頼が来る。

現場からは「これも測りたい」という提案が上がってくる。

これらの声に応え続けると、KPI セットは肥大化する。

これを 意識的にスリム化できるのは、現場の実態と KPI の利用状況の両方を一番よく知っている、生産管理・現場管理職しかいない

KPI を增やすのは誰でもできる。KPI を減らすことに価値を見出せるかどうかが、生産管理・現場管理職の力量 だと、私は考えている。

DXの前に、KPIセットの棚卸しを

近年、「BIダッシュボードで KPI をリアルタイムに可視化しよう」「製造業向けクラウドで生産データを統合しよう」という提案が、中小製造業にも数多く持ち込まれるようになった。

これらのツールは、KPI の集計・可視化の手間を大きく減らす。月次のグラフ作成に1日かかっていた作業が、ダッシュボードで自動更新されるようになる。

しかし、ここに落とし穴がある。集計の手間が減ったぶん、惰性で残っていた「ただ眺める KPI」が、より便利に眺められるようになるだけ という事態が、起きやすい。

KPI セットそのものが見直されないまま、可視化ツールだけが新しくなる。すると、集計作業から解放された時間は、また別の KPI を增やすことに使われ、結局現場の余白は戻ってこない。

これは私の意見だが、BI ダッシュボード導入の前にやるべきは、KPI セットの棚卸し である。今ある KPI のうち、本当に改善行動に使われているのはどれか、ただ眺めているだけのものはどれかを、現場管理職が一度仕分ける。やめる KPI を決める。これをやってから、残った本当に必要な KPI だけをダッシュボード化する。

この順番を逆にすると、DX投資のリターンは大きく目減りする。

まとめ:生産管理・現場管理職がまず取り組むべきこと

KPI が「改善のための道具」として機能するために、現場管理職が実践すべきことは次の通りである。

  • すべての KPI について「この数字を見て、来月どの行動が変わるか」を問い直す
  • 答えられない KPI は、「やめる候補」としてリストアップする
  • KPI を增やす提案には、必ず「やめる KPI とセットで」のルールを置く
  • 経営層・経理・現場からの「測ってほしい」依頼には、利用目的を確認してから受ける
  • BIツール導入の前に、KPI セットの棚卸しを完了させる

シリーズ第1弾の社長向け記事が 指示の発信責任、第2弾の経営管理層向けが 数字の検証責任、第3弾の経理向けが 数字の翻訳責任 の話だったのに対し、第4弾は 数字の測定責任 の話である。

階層は違うが、構造は同じだ。「行為そのもの(KPI集計)」が目的化し、「その行為で何を確かめたいのか」という問いが、誰にも投げかけられないまま放置されている。

そして、この問いを現場で投げかけられるのは、生産管理・現場管理職である。

現場で何が起きているか、KPI がどう使われているかを、最も近くで見ている彼らこそ、「もうこの数字は要らない」と言える立場にいる と、私は考えている。

KPI を增やせる人は多い。減らせる人は希少だ。その希少な役割を担えるかどうかが、現場の DX の成否を分ける。


HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「生産管理のKPIを見直したい」「BIダッシュボード導入の前に、測るべき指標を整理したい」というご相談に対して、KPIセットの棚卸しから伴走しています。

サービス一覧 → / お問い合わせ →

シェアする Facebook X (Twitter)