個人事業主の私がHubSpotで自社の営業をDXしてみたら、半日で「紹介の正体」が見えた話

「営業をデジタル化しよう」と思い立った金曜日の朝。気がつくと夕方になっていて、画面の中には今まで気づかなかった自社の営業の輪郭が映し出されていました。これは個人事業主の私が、HubSpotという無料CRMを導入して半日で体験した、たった一回の「気づき」の記録です。

1. 紙の名刺とExcel、そして「フォロー漏れ」

恥ずかしい話ですが、CRMを導入する前の私の営業管理は、本当にアナログでした。お客さまからの問い合わせはGmailの中に、もらった名刺はGoogle Contactsに、見積金額や次回連絡日はExcelに。それぞれは整理しているつもりでも、横串で見られない。

結果、何が起きていたか。提案書を出した1週間後にフォロー連絡を忘れる。紹介してくれた方へのお礼が遅れる。「あの話、どこまで進んでいたっけ」と毎週金曜の夕方に頭を抱える。

1人で営業から実装まで担う個人事業主にとって、フォロー漏れは命取りです。お客さまが他社に流れることもさることながら、何より「ちゃんと管理できてない自分」が信頼を損なうのが怖かった。そこで、噂に聞いていた HubSpot を本格的に使い始めることにしました。

2. 1時間目:通貨が「ドル」になっていた衝撃

意気込んでアカウントを開設した直後、最初の罠にハマります。デフォルト設定が、なんと米ドル建て・米国東部時間。お試しで「明興工業 顧問契約 600,000」と入力して保存した瞬間、その数字が $600,000(約9,000万円)として記録されてしまいました。

9,000万円の顧問契約。……一瞬、自分の腕がバグったかと思いました。

笑い話のようですが、これは大事な学びでした。CRMは「入れる」ことが目的ではなく「自分の実態に合わせる」ことが目的。通貨をJPYに、タイムゾーンをAsia/Tokyoに直すという、たった2クリックの作業が、すべての出発点だったのです。

3. 2〜3時間目:「自分の営業フロー」を6つに分けた

次は商談ステージの設計です。HubSpotの初期設定は Appointment Scheduled / Qualified to Buy / Presentation Scheduled / Decision Maker Bought-In / Contract Sent… という英語7段階。教科書的には正しいのですが、私の実際の営業フロー(だいたい1〜2週間で決まる短期案件が多い)には、粒度が合わない。

そこで、自分の言葉で6段階に整理しました。

  • 新規引き合い(10%)— 紹介・問合せがあった直後
  • 要件確認中(30%)— ヒアリング実施中
  • 提案・見積作成中(50%)— こちらの工数が発生
  • 見積提出済・検討中(70%)— お客さまのボール
  • 受注(100%)
  • 失注/保留(0%)

各段階に「受注確度」を設定したことで、商談の合計金額が現実的な「見込み売上」として計算できるようになりました。これだけで、漠然とした不安が数字に変わる。

4. 4時間目:274件のリードが押し寄せてきた

そして来ました、HubSpot 導入のクライマックス。Google Contacts との同期をオンにした瞬間、私の知人・取引先・名刺交換しただけの方々を含む、274名のコンタクトが一気にHubSpotに流入しました。

274名 Google Contacts同期で一気に流入したコンタクト数

そして全員のライフサイクルステージが「リード(営業見込み客)」として登録されたのです。

……274名のリード? いやいや、現時点で実際に営業中なのは数名だけ。これが「見込み客」扱いになると、レポートの数字も意思決定もすべて狂います。

ここで気づいたのです。「名刺交換した人 = 営業見込み客ではない」という、当たり前のはずなのに普段意識していなかった事実に。

自分なりの定義を作りました:

  • 登録読者(Subscriber):名刺交換した知人・関係者全般
  • リード:実際に提案を検討している人
  • 商談:ディールが立っている人
  • 顧客:受注済みの方

274名を一旦すべて「登録読者」に整理し、本物のリード4名だけを浮かび上がらせました。営業の見える化は、データを増やすことではなく、定義を絞ることから始まるのだと実感した瞬間でした。

5. 5時間目:「紹介の正体」が見えた瞬間

ステージを整理し終え、いま動いている商談に「リードソース」プロパティで紹介経路をタグ付けしていきました。あるディールで「紹介」と入力し、紹介者欄に書いた名前。

Y 氏

そこから、私の手は止まりました。

Y 氏は、私が所属する団体のメンバーです。その団体の活動の中で、私を講師として推薦してくれて、私が引き受けた講演の場で、お客さまの常務取締役と知り合った。その出会いから、商談が生まれた。

つまり、この案件の「リードソース」は単なる「紹介」ではなかったのです。

気づいたこと

所属団体 → Y氏 → 講演の機会 → 出会い → 商談

これは1回限りの偶然ではない。私の営業の主力導線が、ここに見えていました。その団体というコミュニティに身を置き、講演という形でアウトプットを続ける。その途中で出会いが生まれ、商談に化ける。私の営業は、訪問でもテレアポでもメルマガでもなく、「コミュニティと講演」でできていた。

その瞬間、Y 氏のライフサイクルステージを「登録読者」から「エバンジェリスト」に格上げしました。HubSpotで言うエバンジェリストとは、紹介を持ってきてくれる重要キーパーソンのことです。Y 氏は、HABAねっとの最も大事な人の一人だった。気づいてみれば当然のことなのに、CRMで可視化するまで「重要な人物」として明示していなかった自分に、少し申し訳なくなりました。

6. 半日で見えた、自分の営業の地図

気がつけば日は暮れていました。データの整理、カスタムプロパティ「商材タイプ」「リードソース」「紹介者」「所属コミュニティ」の追加、ディールへの値設定、そして所属団体・中小企業基盤整備機構などコミュニティ別のタグ付け。

最後に、運用ガイドを文書化しました。「新規コンタクトを追加するときは必ず所属コミュニティを記録する」「商談ステージを進めるたびに次回タスクを必ず作る」「月初にリードソース別の受注率をレビューする」── 自分への申し送りであり、未来の自分が迷わないためのルールブックです。

7. 中小企業のCRM導入で、大事だと感じた3つのこと

これは私個人の体験ですが、半日でCRMの土台ができたあとに振り返ると、3つのポイントが効いていたように思います。

① データを増やす前に、整理ルールを決める

274件のコンタクトが一気に増えたとき、もし整理ルールがなかったら、私はずっと混乱していたはずです。「リード」と「ただの知人」を区別する定義を、最初に決める。これだけで運用の質が変わります。

② 紹介経路を可視化すると、営業の正体が見える

「自分の営業はどうやって成り立っているのか」── その答えは、頭の中ではなく、データの中にしかありません。リードソースと紹介者を1つずつタグ付けしていくと、自分でも気づかなかった主力導線が浮かび上がります。

③ 完璧を目指さず、最小ルールから始める

HubSpotには無数の機能がありますが、最初から全部使う必要はありません。ライフサイクルステージ・ディールステージ・カスタムプロパティを3〜5個ずつ。それで運用を回し、3ヶ月後に「足りないもの」を足していく。これくらいの軽さで始めるのが、続くコツだと感じました。

8. CRMは「入れること」じゃなく「見えること」

半日が終わり、画面に映し出されていたのは、私の営業の地図でした。所属団体から流れてくる紹介、講演を起点とする出会い、年に数件しか動かないけれど確実に決まる顧問契約。点と点でしか認識していなかったものが、線として、構造として見えてきた。

CRMは、新しいツールを入れる作業ではなく、自分の営業を自分自身に説明する作業でした。そしてそれは、これからお客さまにDXを提案していく自分にとっても、何より大事な経験になりました。

もし、あなたの営業活動が「Excelとメールに散らばっていて、フォロー漏れが怖い」状態にあるなら、半日だけ時間を取ってCRMの土台を作ってみることを、強くおすすめします。完璧でなくていい。「見える化」が始まるだけで、自分の仕事の輪郭が変わります。


本記事の「客観的な事例レポート版(B2B型・体系的フォーマット)」を、自社サイトの実績ページに掲載しています。導入企業概要、課題、選定理由、半日のロードマップ、Before/After 比較、3つの示唆まで体系的にまとめています。

【自社事例】個人事業主がHubSpotで営業基盤を半日で整備、紹介経路の可視化に成功


HABAねっとは、富山を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。「うちもCRMを入れたいけど何から始めればいいかわからない」「営業活動の見える化を進めたい」という方には、HubSpotの初期設定から運用ルールづくりまで、ハンズオンでお手伝いします。「ツール選定」ではなく「課題」「業務」「人」から設計するDXを、一緒に組み立てます。

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デジタル工房HABAねっと / 幅 美貴

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