値段は、どうやって決まっているのか(4)相場は、鵜呑みみにしない

「相場、調べておいて」
「はい、他社さんはだいたいこのくらいでした」
「じゃあ、うちもそれに合わせよう」


一見すると、正しい。

ですが、この「合わせよう」に、落とし穴があります。

相場を調べるのは、AIがいちばん得意なこと

四つの判断の二つ目、相場を扱います。

まず率直に言えば、相場を調べる作業は、AIがとても得意とするところです。

公開されている価格情報、業界の傾向、類似サービスの料金帯。散らばった情報を集め、整理し、「だいたいこのあたり」という相場観を、短時間でまとめてくれます。人が何時間もかけていた調査が、ぐっと軽くなる。

だから今回、AIの使い方そのもので迷うことは少ないはずです。

たとえば「同業のこのサービスは、一般にどのくらいの価格帯か。安い層・中間・高い層に分けて、それぞれの特徴とあわせて整理してほしい」と頼めば、AIは手早く見取り図を返してきます。

問題は、そこから先です。

返ってきた相場を、そのまま受け取ってよいのか?

この回で本当に伝えたいのは、AIの使い方ではなく、AIとの距離の取り方のほうにあります。

「相場に合わせる」ことの、二つの危うさ

調べた相場に、そのまま合わせる。

これがなぜ危ういのか。理由は二つあります。

一つ目は、相場に合わせた瞬間、自社の価値が消えること。

相場とは、平均のことです。

周りに合わせれば、あなたの会社は「その他大勢のうちの一つ」になります。

もし自社に、他社にはない強みがあるなら——早い、丁寧、アフターが手厚い——相場に合わせることは、その強みをタダで差し出すことに等しい。

価格は、価値を伝えるメッセージでもあります。

平均に埋もれれば、そのメッセージは届きません。

二つ目は、相場そのものが、正しいとは限らないこと。

AIが集めてくる相場は、あくまで「表に出ている情報」の平均です。

安値で消耗している会社の価格も、そこには混じっています。

業界全体が長年の値下げ競争で疲弊しているなら、その「相場」は、健全な水準ではなく、みんなで沈んでいった結果の水位かもしれません。

それに合わせることは、一緒に沈むことでもあるのです。

相場は「参考にするもの」であって、「従うもの」ではない。

AIは事実を教えてくれるが、判断はしてくれない

ここに、この連載を通じて何度も出てくる大事な線引きがあります。AIは「事実」を集めるのは得意ですが、「判断」まではしてくれない、ということです。

相場がいくらか、は事実。AIが教えてくれます。

ですが、その相場に合わせるべきか、あえて上に出るべきか、下で勝負するべきか。

これは判断であり、経営者にしか決められません。

自社の強みは何か、どんな顧客に選ばれたいか、という自分の軸がなければ、AIが出した相場に、ただ引きずられて終わります。

言い換えれば、相場を調べる前に、決めておくべきことがある。

「自分たちは、どういう立ち位置で戦うのか」です。

この軸があってはじめて、相場は使える道具になります。

軸がなければ、相場はただ、自分を平均へ引き戻す重力になってしまう。

AIに、AIの答えを疑わせる

とはいえ、「批判的に読め」と言われても、どうすればいいのか。

ここで面白いのは、相場を集めさせたAIに、そのまま問い返せることです。

たとえば、こんなふうに尋ねてみます。

「今の相場は、値下げ競争で下がった結果ではないか。もしそうなら、その兆候はどこに出ているか」

あるいは「この相場より高く売っている会社は、何を理由に、その値段を正当化しているか」

さらに「安さ以外で選ばれている会社は、どんな価値を打ち出しているか」

こう問うと、AIの答えは、ただの平均値から動き出します。

「この価格帯は長年据え置かれており、原材料費の上昇が反映されていない可能性がある」「高価格帯の会社は、短納期や手厚い保証を理由に挙げている」など理由や根拠を伝えて来ます。

そんな具合に、相場の内側にある構造が見えてくるのです。

最初にもらった「だいたいこのあたり」が、鵜呑みにできない数字だと分かってきます。

AIは、事実を集めるのも得意ですが、集めた事実に自分でツッコミを入れさせるのも得意です。

同じAIを、調べ役と、疑い役の二役で使う。

この往復が、相場を「従うもの」から「参考にするもの」へと引き下げてくれます。

実際に、自分の「講師料」を調べてみた

抽象論だけでは伝わりにくいので、私自身の例を一つご紹介します。

私は仕事柄、講演や説明会の講師を頼まれることがあります。

ありがたい話なのですが、いつも悩むのが、この「講師料をいくらにするか?」でした。

相手が公的な団体だったり、初めての依頼だったりすると、なおさら迷う。

そこで、この連載で書いてきたやり方を、自分自身に対して試してみました。

ただ、その前に一つ、済ませておいたことがあります。自社の強みの棚卸しです。

これは値決めのために慌ててやったことではありません。第2回で書いた、AIとの壁打ちで見いだした「現場の手を動かしながら、中小企業のDXに伴走する」という立ち位置。これが、あらかじめ定まっていた自分の軸でした。

値決めは、その軸があってはじめて動きだす。

順番を間違えてはいけません。相場を見てから強みを探すのではなく、強みを分かったうえで相場を見るのです。

まず、AIに調べてもらいました。

「企業や団体向けに、専門分野で講演する講師の講演料は、一般にどのくらいの幅があるか。知名度別・時間別に整理してほしい」

返ってきたのは、おおむねこんな見取り図です。

  • 地域密着で活動する実務家や、実績を積む段階の講師は、数万円から10万円ほど。
  • 特定分野の専門家だが、テレビなどの露出は多くない層は、10万円台から30万円ほど。
  • 知名度やタレント性のある講師になると、そこから大きく上がっていく。
  • 企業向けの研修では、20万円から30万円あたりが一つの目安になる。

ここで、そのまま「では平均的なあたりで」と決めてしまえば、この連載で戒めてきた通りの落とし穴にはまります。

だから、AIに問い返しました。「この幅の中で、値段の差は、いったい何から生まれているのか」と。

AIの答えは、示唆に富んでいました。要約するとこんな感じでした

  • 差を生んでいるのは、知名度だけではない。テーマの専門性と希少性——その人でなければ話せない内容かどうか——が、大きく効く。
  • 実際、ITやDXのように、話せる人が限られ、かつ実務の裏づけが要るテーマは、一般的なビジネスマナー研修などより高い価格帯になりやすい。

この答えは、事前に整理しておいた自社の軸と、まっすぐつながりました。

もし私が「地元の実務家」という一面だけで自分を見れば、相場は自然と低いほうに寄ります。

ですが、先の軸——実装まで自分で担う、という希少性——に照らせば、置くべき座標は違ってくる。

これは相場を見て強みに気づいたのではありません。

先に分かっていた自社の強みが、相場のどこに自分を置くべきかを教えてくれたのです。

同じ私でも、どの座標で自分を捉えるかで、妥当な講師料は変わります。

結局、値段を決めたのは、AIではなく私自身です。

AIは、相場という外の座標を見せてくれ、その座標の意味を一緒にほどいてくれた。

ですが「自分をどの座標に置くか」という最後の一点は、自分の軸でしか決められません。

まさに、この回で言いたかったことを、自分の財布で確かめた形になりました。

前回の原価が値段の「下限」を教えてくれるものだとすれば、今回の相場は、市場という「外の座標」を教えてくれるもの。

ですが、下限と座標が分かっても、まだ胝心なことが残っています。目の前のこの顧客が、いくらまでなら出すのか。それです。


次回(第5回)は、三つ目と四つ目の判断、「顧客の支払い意思」と「自社の立ち位置」を扱います。数字ではっきり出る部分と、人が読むしかない部分。その境界を、一枚の見取り図で整理します。

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