これから始まる連載の、前書きにあたる文章です。
本編に入る前に、なぜこれを書こうと思ったのか、何を伝えたいのか、そして全体がどう進んでいくのかを、先にお話しさせてください。
なぜ、これを書こうと思ったのか
きっかけは、ある素朴な疑問でした。
生成AIがこれだけ社会的な話題になっているのに、いまだに手をつけようとしない経営者が、なぜこんなに多いのだろう、と。
触りたくても触れない人、触ろうとしない人、触れずにいる人。
中小企業の現場でDX支援をしていると、そういう経営者に何人も出会います。
最初は「もったいないな」くらいに思っていました。でも、よく観察していくうちに、これは単なる出遅れや不勉強では片づけられない、もっと根の深い何かがあると感じるようになったのです。
そして同時に、正反対の経営者もいることに気づきました。
前のめりに飛びついて、過剰な期待を抱いて、そして勝手に幻滅していく人たちです。触れない人と、飛びつきすぎる人。
一見、正反対に見えるこの二つは、もしかすると同じ根っこから生えているのではないか。その直感を確かめたくて、この連載を書き始めました。
この連載で、やりたいこと
この連載でやりたいのは、「AIを導入しましょう」と背中を押すことではありません。
むしろ逆で、なぜ多くの経営者がAIの前で立ち止まったり、踏み外したりするのか、その理由を一つずつ分解していくことです。
そしてもう一つ、私がこの連載で大事にしたいことがあります。それは、きれいにまとまった結論を、そのまま差し出さないことです。
世の中には「AI成功の三つの法則」のような、すっきりした記事があふれています。
読むと分かった気になる。でも、その手の整理は、たいてい具体例で検証されていません。だから私は、この連載の途中で、自分で立てた仮説を自分で疑い、実際の事例にぶつけて検証します。
仮説が崩れる場面も、そのまま書きます。考えが深まっていく過程ごと、お見せした方が良いと考えたからです。
全体のストーリー
連載は全六話です。
一本の問いを、少しずつ掘り下げていく構成になっています。
第1話では、「なぜ多くの経営者はAIに触れないのか」を扱います。
触れない理由は、実は「お金」ではない、というところから話が始まります。
第2話では、逆に「飛びつきすぎる経営者」の落とし穴を見ます。
前のめりが、なぜ深い幻滅につながるのか。触れない人より、たちが悪いことがあるのはなぜか。
第3話で、両者の間にいる「使いこなす経営者」を加えて、三つのタイプを分けるものは何かという仮説を立てます。ここはまだ仮説です。
第4話が、この連載の山場です。立てた仮説を、実際の公開事例にぶつけて検証します。そして、私の仮説は一つの事例の前であっけなく綻びます。そこから何が見えてきたのでしょうか?
第5話で、論考としての結論にたどり着きます。結局、経営者とAIの距離を決めていたのは何だったのか。それは「AIの問題」ですらなかった、という話です。
そして第6話は補章です。論考からは少しはみ出して、私自身の仕事、あきらめの谷で伴走するということについて書き添えます。
どんな人に読んでほしいか
この連載は、AIに詳しい人のために書いたものではありません。
むしろ、「AIをやった方がいいのは分かっているけれど、どうも一歩が踏み出せない」と感じている経営者の方や、逆に「うちは早くから取り入れたのに、なぜかうまくいかなかった」という方に、いちばん読んでいただきたいと思っています。
そして、これはAIだけの話ではありません。
新しい設備、人への投資、社内のルールづくり 、これらはコストとリターンが数字で測りにくく、社内の意見も割れやすい、そういう経営判断すべてに通じる話だと、私は考えています。
今回の話題は、AIを入り口にしていますが、本当のテーマは「分からないものと、どう距離を取るか」なのです。
それでは、本編でお会いしましょう。
まずは第1話、「なぜ多くの経営者はAIに触れないのか」から始めます。