
読者からのご質問
AIに議事録を作らせたら、話していないことまで書かれていました。こわくて、もう使えないなと思っています。私のような素人には、やっぱりまだ早いのでしょうか。(製造業・60代・経営者)
回答
早すぎる、ということはありません。そして「話していないことが書かれていて、こわい」――その感覚は、AIと付き合ううえで一番大切な感覚です。どうか捨てないでください。
お便り、ありがとうございます。
今日はこの二つを、順番にご説明します。
1. 素人だから起きたのではありません
最初にはっきりさせておきたいのは、これは「素人だから起きた失敗」ではない、ということです。
AIが話していないことを書く現象は、使い方が上手な人にも、専門家にも、同じように起きます。原因はあなたの操作ではなく、AIという道具の仕組みそのものにあるからです。
たとえて言うなら、入社したばかりの新人に議事録を頼んだ場面に似ています。
会議の途中、専門用語が聞き取れなかった。前後の文脈もまだ分からない。それでも新人は、空欄だらけの議事録を出すわけにはいかないと思い、聞き取れなかった部分を「たぶんこういう話だったのだろう」と想像で埋めてしまう。
AIも、これとほとんど同じことをします。
ただし、人間の新人と決定的に違う点がひとつあります。新人なら「すみません、ここは聞き取れませんでした」と言えます。
ところが今のAIは、原則として「分かりませんでした」と言いません。分からない部分も、もっともらしい言葉で、自信たっぷりに埋めてくるのです。
この現象には「ハルシネーション」という専門用語がついています。日本語にすれば「もっともらしい作文」です。AIは会議の内容を理解して書いているのではなく、「この流れなら、次はこういう言葉が来そうだ」という確率のつなぎ合わせで文章を作っています。
だから、材料が足りない場所では、それらしい嘘が自然に生まれてしまいます。
2. 議事録は、特に起きやすい仕事です
しかも議事録という仕事は、この「もっともらしい作文」が特に起きやすい条件がそろっています。
第一に、音声が完璧には聞き取れないこと。会議室の雑音、複数人の同時発言、マイクから遠い声。録音の穴は、必ずどこかにあります。
第二に、人間の会話は省略だらけであること。「例の件、あれでいこう」で通じてしまうのが社内の会話です。AIはこの「例の件」「あれ」を、前後から推測して具体的な言葉に置き換えようとします。その推測が外れたとき、「話していないこと」が議事録に現れます。
第三に、議事録は「それらしく」書けてしまうこと。決定事項、担当、期限――型が決まっているぶん、中身が違っていても文章としては成立してしまうのです。
つまり、あなたの会議で起きたことは、議事録という仕事の性質上、いつか必ず起きることでした。運が悪かったのでも、腕が悪かったのでもありません。
3. 「全部チェックしろ」は正論ですが
ここで、よくある正論が出てきます。「AIの出力は、必ず人間が確認しましょう」。
これは正しい。
正しいのですが、実際にやろうとした方ほど、こう感じるはずです。「全部読み直して確認するくらいなら、最初から自分で書いた方が早いのではないか」と。その感覚も、まっとうです。正論だけでは、道具は使えるようにならないのです。
そこで、確認の考え方を変えます。全部を疑うのではなく、間違えられたら困る場所だけを疑う。
議事録で本当に困るのは、実はごく一部です。
- 決定事項(何を決めたか)
- 数字(金額、数量、日付)
- 固有名詞(人名、会社名、製品名)
- 宿題(誰が、いつまでに、何をやるか)
逆に言えば、話の流れの要約が多少ずれていても、実害はほとんどありません。30分の会議で決まることは、たいてい3つか4つです。上の四点だけを自分の記憶と照らすなら、確認は5分で終わります。
AIには下書きを任せ、判断はこちらが持つ。文章を書く時間はAIに削ってもらい、浮いた時間の一部を「疑う時間」に充てる――役割分担は、これだけです。
4. 慌てなくて大丈夫です
そして、冒頭の話に戻ります。
あなたは「話していないことが書かれている」と気づき、こわいと感じ、いったん手を止めました。この一連の反応は、AIを使ううえで最も危険な落とし穴を、最も安い授業料で通過した、ということです。
一番危ないのは、こわがる人ではありません。疑わずに、そのまま配ってしまう人です。
もしあの議事録に違和感を持たず、そのまま取引先に送っていたら――と考えると、今回の「こわい」は、あなたの会社を守った感覚だったとも言えます。
だから、その感覚を持ったまま、確認する場所を四点に絞って、もう一度だけ試してみてください。道具を捨てる必要はありません。信じ方を変えるだけです。
5. 本当のテーマは「間違える相手と、どう仕事をするか」
最後に、少しだけ話を広げます。
今回の話題はAIを入り口にしていますが、本当のテーマは「間違えるかもしれない相手と、どう仕事をするか」だと、私は考えています。
思い返してみてください。新人に初めて見積もりを任せたとき、いきなり全部を信じたでしょうか。おそらく、金額と納期だけは必ず自分の目で確かめ、任せる範囲を少しずつ広げていったはずです。
完璧な部下を待つのではなく、間違いを前提にした確認の仕組みを作る――それは、経営者であるあなたが何十年もやってきた仕事そのものです。
AIとの付き合い方は、その延長線上にあります。
素人にはまだ早い、どころではありません。「間違える相手に仕事を任せる」経験にかけては、あなたはすでにベテランなのです。
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HABAねっとは、北陸を拠点に中小企業・個人事業主のDX伴走支援を行っています。AI議事録のような小さな一歩も、「どこを人が確認し、どこを道具に任せるか」の設計しだいで、安心して使える仕組みに変わります。「ツール選定」ではなく「課題」「業務」「人」から設計するDXを、ご一緒しましょう。