「うちの強みって、結局なんだろうね」
「安さ……ではないですよね。じゃあ、丁寧さ?」
「それ、どこの会社も言うんだよな」
「……あらためて聞かれると、うまく言葉にできないですね」
値段を決める前に、答えを出しておくべき問い
前回、値決めの水面下には四つの判断が沈んでいるとお伝えしました。
原価、相場、支払い意思、そして自社の立ち位置。この四つを、これから一つずつ掘っていきます。
ですがその前に。
四つすべての土台になる、もっと手前の問いがあります。「そもそも、自社の強みは何か」。これです。
なぜ、これが値決めの手前に来るのか。
前の回で少し触れましたが、相場を見るとき、自分の立ち位置が定まっていないと、ただ平均へ引き戻されてしまいます。
高く出すべきか、安く勝負すべきか。その判断は、自社の強みが分かっていて、はじめて下せるのです。
強みを知らずに値段を決めるのは、地図を持たずに海に出るようなもの。
ところが、この「自社の強み」ほど、分かっているようで分かっていないものはありません。
冒頭のやりとりのように、あらためて問われると、言葉に詰まる。「安さ」でも「丁寧さ」でもない、自社だけの何か。
それを、どうやって見つければいいのでしょうか。
強みが見えないのは、近すぎるから
自社の強みが分からない理由は、はっきりしています。近すぎるからです。
毎日やっていることは、自分にとって「当たり前」になります。
当たり前になったことは、価値として意識にのぼりません。ですが、その当たり前こそが、他社にはできない強みだったりする。
自分では平凡だと思っている仕事が、外から見れば際立っている。そういうことは、珍しくないのです。
つまり、強みを見つける作業とは、「当たり前になって見えなくなっているもの」を、もう一度見えるようにする作業です。
これは自分ひとりで内省しても、なかなかうまくいきません。近すぎるものは、自分の目では焦点が合わないからです。
ここに、誰か「問いかけてくれる相手」がいると、事情が変わります。
- 「なぜ、それをやっているのか」
- 「他社はやらないのか」
- 「なぜ、あなたにはそれができるのか」。
問われることで、当たり前だったものが、はじめて言葉になる。壁打ちの相手です。
私は、AIを壁打ちの相手にした
実を言うと、私自身の会社の強みも、この方法で見いだしました。
壁打ちの相手は、人ではなく、AIでした。
やったことは、単純です。
AIに、自分のこれまでの仕事を、思いつくまま語りました。
どんな案件をやってきたか。どんなとき、顧客に喜ばれたか。逆に、何が苦手か。
そのうえで、こう頼みました。
「私の話から、他の人にはない強みだと思える点を挙げて、なぜそう言えるのかを説明してほしい」と。
AIは、私が「当たり前」として語り流した部分を、拾い上げてきました。
たとえば、私にとっては何でもない「現場で自分も手を動かしながら進める」というやり方。
これをAIは、「多くのIT支援が助言に留まる中で、実装まで自分で担うのは希少だ」と指摘したのです。
自分では強みだと思っていなかったことが、外の目で見れば際立っていた。近すぎて見えなかったものが、問いを通して像を結びました。
もちろん、AIが言ったことを、そのまま鵜呑みにはしません。
「それは本当に自分の強みか」「言われてみて、腑に落ちるか」を、自分の実感と照らし合わせる。
AIの指摘は、あくまで気づきのきっかけです。
最終的に「これが自分の軸だ」と決めるのは、自分自身にほかなりません。
強みは、外から与えられるものではない。もともと在ったものに、光を当てて気づくものなのです。
なぜ、壁打ちの相手にAIが向くのか
強みの言語化に、なぜAIが向いているのか。理由はいくつかあります。
一つは、遠慮なく、素朴な問いを重ねられること。
「なぜ?」「本当に?」「他とどう違う?」
人間相手だと、しつこいと思われそうで聞きづらい問いも、AIには何度でも投げられます。
この素朴な問いの反復が、当たり前の殻を割るのです。
もう一つは、こちらに気を遣わないこと。
人に相談すると、相手は多かれ少なかれ気を遣います。
「まあ、いいんじゃないですか」と、角を立てない答えに流れがち。AIには、そこに忖度がありません。
こちらが語った事実から、淡々と「ここが際立っている」と返してくる。
お世辞でも、けなしでもない、素の指摘が返ってきます。
*注)時々「よい観点です」「よい質問です」と褒め言葉を枕言葉のように使って来ますが、ただの応答パターンなので気にしないでおきましょう。
さて、この素の指摘。これは、弊社が大切にしている考え方とも、深く重なっています。
それは『感情に流されず、データと理論で自分の軸を定める。』という事です。
AIとの壁打ちは、まさにその実践でした。
自分の思い込みや願望ではなく、これまでやってきた事実を並べ、そこから軸を立てる。自律した判断の、出発点になります。
こうして、自社の軸が定まりました。
この軸があってはじめて、次回からの話——原価、相場、支払い意思——が、意味を持ってきます。
土台が決まりました。いよいよ、四つの判断を一つずつ掘っていきましょう。
次回(第3回)は、四つの判断の一つ目、「原価」を取り上げます。
「うちの本当の原価」を、社長は知っているか。
積み上げれば出るはずの数字が、なぜ多くの会社で曖昧なままなのか。そこを見ていきます。