01 概要
| 業種 | 製造業(金属加工) |
|---|---|
| 企業規模 | 従業員約50名 |
| 所在地 | 北陸地方 |
| DX支援の範囲 | 業務プロセスの見える化・受注管理フローの改善 |
| 支援期間 | 約1ヶ月(ステップ1単体) |
本事例は、「中小製造業のDX10ステップ」シリーズのステップ1「業務の見える化」に対応する実例レポートである。同社はステップ0「課題の言語化」を経て、次のステップとして業務フローの整理に取り組んだ。プロセスを書き出す1〜2時間のワークのなかで、10年以上にわたって継続していた受注情報の二重入力が発覚。既存ツール(Googleスプレッドシート)の運用変更のみで、翌週から課題を解消した。
02 取り組み前の課題
同社における受注〜生産指示の流れは、以下のとおりであった。
問題は「誰も気づいていなかった」ことにある。営業担当者は「生産管理が使いやすい形に整理して渡すのが自分の役割」と認識しており、生産管理担当者は「入社時から先輩に教わった方法を続けていた」という。社長も「細かい業務の流れまでは把握していなかった」と話す。
悪意や怠慢ではなく、全員が「これが正しいやり方だ」と信じて業務を続けていた。問題が顕在化しなかった理由は、誰も「全体の流れ」を俯瞰したことがなかったからである。
03 HABAねっとへの依頼と選定理由
ステップ0「課題の言語化」を経て、同社から「次に何をすればよいか」というDX推進の相談を受けたことが今回の支援の起点である。ステップ0での整理により「業務の流れが可視化されていない」という課題が明確になっており、ステップ1「業務の見える化」への着手が自然な流れとなった。
HABAねっとを継続して選んだ理由として、担当者からは「ツールを売るのではなく、まず現場の業務を整理してくれるアプローチが合っていた」という声があった。今回のステップも、新たなシステム導入を前提とせず、「現在の業務フローを書き出す」ことから始めた。
04 取り組みの内容とプロセス
フェーズ1:プロセス書き出しワーク(約2時間)
関係部門(営業・生産管理・購買)のメンバー5名が集まり、「誰が・何を・誰に(どこへ)渡すか」を付箋に書き出すワークを実施した。1人で作るのではなく、複数人が同時に付箋を貼ることが重要だった。
ワーク開始から40分ほどで、営業のCさんと生産管理のBさんがどちらも「受注入力」という付箋を貼ったことで、その場に沈黙が生まれた。二重作業の発覚は、コンサルタントが指摘したのではなく、現場のメンバー同士の「え、私もやってます」という気づきから起きた。
フェーズ2:時間・頻度の計測(1週間)
発覚した各作業について、「1回あたりの所要時間」と「週あたりの頻度」を1週間だけ実測した。感覚値ではなく実数を記録することで、「月13時間」「年160時間超」という具体的なコストが初めて数字として可視化された。
数字が出たことで、社内の議論が変わった。「多い気がする」という感覚論から、「これだけのコストが毎年発生している」という事実ベースの議論に移行し、改善に向けた意思決定が速くなった。
フェーズ3:改善案の設計と移行(1日)
改善策を提案したのはHABAねっとではなく、BさんとCさん自身だった。「じゃあどちらかだけ入力すれば済むのでは」という発言が出たあと、既存のGoogleスプレッドシートを共有シートとして運用する形に変更することをその場で決定した。
Cさんが1つのスプレッドシートに入力し、Bさんがそのデータをそのまま参照する形への移行は、設定変更と運用説明で1日もかからなかった。追加のシステム購入も外部ベンダーへの依頼も不要であった。
05 成果
| 項目 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| 受注入力の担当者数 | 2名(Cさん・Bさん) | 1名(Cさんのみ) |
| 1日あたりの入力時間 | 約40分(2名合計) | 約20分(1名のみ) |
| 年間工数(推計) | 約240時間(2名計) | 約80時間(1名のみ) |
| 削減工数(年間) | ― | 約160時間 |
| 入力ミス(転記エラー) | 月2〜3件(目視確認が必要) | ほぼゼロ(参照のみのため) |
| 追加システム投資 | ― | ¥0 |
定量的な成果に加え、Bさんからは「毎日の転記ミスが減って確認作業がなくなった」という副次的なメリットも報告された。また、現場のメンバーが自ら「これは無駄なのでは?」と考え始める姿勢が生まれ、他業務の見直しへの意欲も高まったという。
06 本事例の示唆
本事例から得られる最大の示唆は、「問題の多くは、可視化されていないだけで、すでに現場に存在している」という点である。
同社の二重作業は、誰かが意図的に設計したわけではない。慣習として定着し、「入社したときからそうだった」という理由で誰も疑わなかった。外から指摘されるのではなく、自分たちで書き出すことで初めて全体像が見えた。
また、「見える化すると、解決案は現場から出てくる」という点も重要だ。今回の改善策はHABAねっとが提案したものではなく、BさんとCさんが自分で気づき、自分で提案した。外部が「こうすべき」と押しつけるより、現場が自ら気づいた改善のほうが定着しやすい。
「見える化」は、答えを与えることではない。現場の人が自分で答えを見つけられる状態をつくることだ。
07 今後の展開
受注管理フローの改善を起点に、同社では次のステップとして「小さく始めるデジタル化」(ステップ2)に着手した。まず対象を「受注〜生産指示」の1プロセスに絞り、Googleスプレッドシートで運用しながらデータの蓄積と活用方法を検討している。
全社的なERPや在庫管理システムの導入は、こうした「1プロセスの改善」を積み重ねたあとの選択肢として位置づけている。先にシステムを決めるのではなく、業務の流れを整理してから必要なものを検討するというアプローチを継続している。
08 同じ課題を抱える方へ
「うちも似たような二重作業があるかもしれないが、どこから手をつければよいかわからない」という声をよく聞く。HABAねっとでは、業務の見える化から始めるDX伴走支援を提供している。
まず「誰が・何を・誰に渡しているか」を書き出す1〜2時間のワークから始められる。システムの検討はその後でよい。北陸を拠点に、現場の言葉で一緒に整理することを大切にしている。
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